老練なる男



「それで、あんた何?」
「ムチャな召還をしておいてそれかね。とんでもないマスターに引き当てられたものだ。これでは、いくら穏やかさを信条としている私でも、いささか語気が荒くなる……」
 遠坂邸。召還の余波によってズタズタに崩壊した部屋の中心で、さもそこが王座であるかの如く崩れたソファーに腰を下ろした初老の男は、静かな凄みを持って笑みを浮かべた。
 サーヴァント・アーチャー。彼が、遠坂凛によって第五回聖杯戦争に召還された瞬間だった。



その力は不可視の特異能力。



「アーチャー、手助けはしないわ。アナタの力、ここで見せて」
「よかろう」
 主の言葉に、アーチャーは自信を持って応えた。
 だらりとぶら下げた両手に武器はなく、その身を包むのは鉄の鎧でも盾でもなく、見た事もない軍服のような服である。
 ただ静かな威圧感のみを携え、ランサーと対峙するアーチャー。穏やかな物腰は、とても戦場にいるとは思えない。
「へっ、武器も無しに戦おうってのか!」
 真紅の槍を携え、ランサーが地を駆ける。土煙を巻き上げて突き進むその動きは凛の目では追いつけないほど速い。常人ならば気がついた瞬間に心臓を貫かれている。
 しかし、空気を切り裂いて繰り出された槍の矛先は、アーチャーの心臓に届く直前で見えない壁にぶつかったかのように停止した。
「なにっ!?」
 その槍の先に壁も盾もない。しかし確かに感じる硬い手応えにランサーが驚愕の声を上げる。
「『速さ』は私に何ら危機を与える事は出来ない! はああっ!!」
 アーチャーの気合い一つで、ランサーが見えない力に吹き飛ばされる。空中で姿勢を立て直しながら、ランサーは先ほどの立ち位置まで後退した。
 依然、アーチャーは武器らしい武器を持ってはいない。しかしランサーの攻撃を弾き返した、何らかの力が働いたのは事実なのだ。
「何だ!? てめえ、何をした!!?」
「どうした、ランサー? 仮にも最速のクラスに位置する男がっ!」
 叱咤と共にアーチャーがランサーに向けて片手を掲げる。その瞬間、空気が炸裂し、不可視の衝撃波が一直線に襲い掛かった。
 ランサーは自らのスキルに<矢避けの加護>を持っている。目に見えるあらゆる飛び道具を受け付けないという、アーチャーのクラスにとっては反則とも言える能力でありながら、しかしその見えない攻撃には何ら意味を持たなかった。全身を襲う激しい衝撃に、ランサーは木の葉のように再度吹き飛ばされる。
「くそっ!」
 空中できりもみしながらも何とか体勢を立て直し、アーチャーと間合いを取って対峙する。
「その程度か、ランサー!?」
 戦闘を開始した時と変わらない仁王立ちで、アーチャーの声が朗々と響き渡る。彼を立たせているのは、自らへの絶対の自信と、その心に力強く立つ信念だった。
 ランサーは追い詰められながら笑みを浮かべる。
 雰囲気で分かる。これは命を賭けて戦うに値する男なのだと。
「けっ、言ってくれるじゃねえか! なら全力でやってやるぜ!!」
 最強の一撃を放つべく、ランサーは槍を構えた。








 かつて、未来において現れた同じ特異能力者たちを導く為に奮起した。
 特殊部隊にして、一人の信念を持つ男。




 聖杯戦争は混迷を極めた。
 激突するサーヴァント。暗躍するキャスター。現れる八番目にして最強のサーヴァント。そして明かされる聖杯戦争という生贄を捧げる儀式の仕組み。
 戦いの中、多くの悲しみが、怒りが、無念が飲み込まれていく。犠牲になった人々の涙が流れ落ちる。
 その中で奮闘する正義の味方。
 自らの力の無さを嘆き。己の貫く信念に苦しみ、嘆き、血涙を流す。
 そして今、愛する者を助ける為に進む<衛宮士郎>の前に、かつて共に戦った男が立ち塞がる―――。



「よく来たな、衛宮士郎」
「アーチャー!」
 アインツベルン城。広大なホールの真ん中で、二人の男が対峙する。
「アーチャー、何故遠坂を攫った!? 学校では皆を助ける為に一緒に戦ったアンタが、なんで今になって裏切るんだ!?」
 士郎は慟哭した。
 目の前に佇む威厳溢れる佇まい。真っ直ぐにこちらを見据える視線には一切の澱みなどない。そんな信義を持つ男が、何故敵に加担し、自らの信頼するマスターを人質にしているのか。
「そうする理由はある。サーヴァントとしてではなく、一人の男として!」
「な……っ、うわああああっ!!?」
 アーチャーが言い放つと同時に、士郎の体を凄まじい衝撃波が襲った。
 かつて何度か共闘しながらも、完全に見極めるコトの出来なかった不可視の攻撃。それを受けた士郎は文字通り、その身をもって理解した。
 衝撃に吹き飛ばされ、背後の壁に叩きつけられて一瞬呼吸が停止する。倒れそうになる足を叱咤して体を支えると、士郎はアーチャーを睨み付けた。
 そして、ついに捉えた。彼の攻撃の正体を。
「それは……っ!」
「初めて見せることになるかな。物質を再構成させる特異能力<アルター>、その中でも<融合装着型>と<自立稼動型>を合わせ持つ、これが私の能力!」
 仁王立ちするアーチャーの傍らに付き従うように、いつの間にか異形の怪物が幽鬼の様に佇んでいた。
 大柄なアーチャーよりさらに一回り大きく、野太い足で巨躯を支え、骸骨を連想させる顔を持つ隻腕の怪物。それが虚ろな瞳で、標的である士郎を見つめていた。
 そしてアーチャー自身もまた、怪物の体の一部を反映したような奇怪なプロテクターでその身を包んでいる。
「この宝具の真名はアルター<エイリアス>だ!」
「それが、アンタの力か……」
 その真の姿を現したアーチャーの力に、士郎は息を呑んだ。


「さあ、侵攻と攻撃を開始しよう。自覚と覚悟はいいかね、士郎?」


 次の瞬間、アーチャーの猛攻が始まった。
「何……っ!!?」
 アーチャーが突き出した両肘の位置にはキャノンの砲口のようなモノがあった。そこから噴射される空気の弾丸が、凄まじい威力を持って士郎に襲い掛かる。
 見えない空気の弾丸に対して、士郎は撹拌される大気の音を聞き分け、反射的にその場から跳び退った。一瞬遅れて衝撃波が炸裂する。
「投影、開始(トレース・オン)!」
 すぐさま士郎が剣を投影して反撃する。
 投擲された二本の湾刀は、アーチャーに向けて直進し……しかし見えない壁に阻まれ、虚しく弾き飛ばされた。
「圧力を操る力……っ!? 周囲に空気の壁を作ってるのか!」
「その通り、故に私への直接打撃は通用しないと考えてもらおう!」
 防御したアーチャーに変わって、傍らの怪物がその口から空気の弾丸を放った。かろうじてそれを回避した士郎は再度白と黒の双剣を投影する。
「だったら、あの化物の方を……っ!」
「判断が鈍いぞ、士郎ぉーっ!!」
 大気の流れが反転する。噴射から吸収へ、空気がその流れを変えた。エイリアス本体がその口から猛烈な勢いで空気の吸引を開始する。
「うわあああっ!?」
 巨大な竜巻の中に放り込まれたような風の力を受け、士郎の体は容易く宙を舞った。その手から剣が離れる。
「ふんっ!!」
 激動する空気圧の中で体の自由を奪われ、木の葉のように弄ばれる士郎に向けてアーチャー自身が空気圧弾を発射した。
 直撃する空気の砲弾。凄まじい衝撃に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて無様に落下する。激突の衝撃の中で、士郎は体内に響く骨の砕ける音を聞いた。
「いざという時にも力をセーブしようとする。中途半端に明日を夢見る。それが敗北を招くのだ、士郎!」
 力なく倒れ伏した士郎の体に、アーチャーの叱責が容赦なく浴びせ掛けられる。
 全身を襲う激痛。しかし、このまま倒れているワケにはいかない。そこまで言われて、退く訳にはいかない。一人の男として!
「ぐぅ……っ、アーチャーぁああああーーーッ!!!」
 士郎が剣を投影し、愚直に突撃する。それしか知らない。それしかできない。
「失望の極みだ、士郎っ!!」
 それをアーチャーの咆哮が迎え撃った。






 アインツベルン城の一角が爆煙と共に吹き飛んだ。アーチャーの怒涛の攻撃に、士郎はなすすべもなく追い詰められていく。
「どうした、出したまえ! 君の本気を! それともかつての仲間には手が出せないか? 君はそれほどまでに、律儀な男か!?」
「ぐはっ……! アー……チャーッ!」
 血反吐を床にぶちまける。
 勝てる気がしない。目の前の圧倒的な力と、それを操る心身を持つ男に、まったく勝てる気がしない。
 そして何より。
 何故。何故今自分は戦っているのか。これだけの信念と力を持つ男が、どうして道を違えるような事になってしまったのか。
「まだ、迷いがあるようだな士郎」
 アーチャーが嘲笑を浮かべる。
「よかろう。ならば君に戦う理由を与えよう。そう、今から10年前に市街で起こった惨劇を。それを引き起こした第四回聖杯戦争の、その真実と結末を話そう―――!」
「っ!!?」
 その言葉は、士郎の心を確実に揺さぶった。
 脳裏に浮かぶのは、ただひたすらの赤。ただひたすら続く真紅の荒野と、熱さと、痛み。そして、逃げ惑う士郎自身に絡みつく多くの人々の声。呪詛。懇願。悲鳴。
「ぅあ……っ」
 声を絞り出す。水滴を落としたように滲んだ視界の先で、アーチャーは妥協なく佇んでいる。
「10年前の都心を襲った大火災。あれを引き起こしたのは、聖杯戦争の過程や結果などではない、汚染された聖杯の中身そのものだ!」
「なん、だと……?」
「第三回聖杯戦争において、アインツベルンは呼んではならないものを呼び出した。そのサーヴァントの名はアヴェンジャー・アンリマユ。『この世全ての悪』と称される呪われし反英霊。それは、全てのサーヴァントにとって最強最悪の脅威となる筈だった……」
 アーチャーは淡々と語り続ける。
「だが、蓋を開けてみればそれは見事な失敗。召還されたアヴェンジャーは、実体を持つことすら出来ず、そのまま消滅した。
 ―――しかし、それは始まりに過ぎなかった。消滅し、聖杯に吸収されたアンリマユはその身に孕んだ呪いを持って、聖杯自体を汚染してしまったのだ!
 その機能を歪められた聖杯は、器の中の水を泥へと変え、手にした者の願いを捻れて叶える代物へと成り果ててしまった。その力の一部が起こした悲劇を、君も10年前に見ているだろう?」
「じゃあ、まさかっ! 10年前に、街で起こった大火災は……っ!?」
「そうだ。あの悲劇は、聖杯が起こしたものと言える!」
「そんな……そんな物のせいで……っ!」
「だが、あの悲劇が君の持つ特異性を生んだ。君の持つ投影魔術は実戦によって急激に向上し、その働きは私自身が手を下さず厄介なキャスターやそのマスターなどを倒すのに、大いに役に立ってくれた! ありがとう!」
「……っそういう事か。利用していたんだな! 俺の力や遠坂の信頼を―――自分の為に!!」
 哄笑を上げ、皮肉交じりの礼を言い放つアーチャーに対して、士郎の怒りが爆発する。怒りは力となって打ちのめされた体を動かし、その心に炎を灯した。
 立ち上がる士郎。しかし、それでも、現実に直面するアーチャーとの力の差は埋めきれない。
「しかし、今となっては君はただの邪魔者! エイリアスッ!!」
 アーチャーの言葉に従い、アルターが士郎に向けて襲い掛かる。凄まじい速さで迫る隻腕の怪物に向けて両手を掲げ、士郎は裂帛の気合いと共に叫んだ。
「熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)―――!」
 英雄アイアスの用いた盾の投影。生み出された光り輝く花弁は、エイリアスの猛烈な突進を遮る。ぶつかり合う二つの力が放つ火花、本来ならばそこで状況は拮抗する。しかし、
「はぁあああああっ!!」
 一片の驕りも容赦も無く、今度はアーチャー自身が自らの体を矢として盾に突撃した。突き出した肘の砲口から空圧の矛先を撃ち出し、二つの力を持ってアイアスの盾を砕かんと迫る。その覚悟が生み出す威力に、七枚の花弁が一枚ずつ、圧されるように消滅していった。
「くぅぁあああ……っ!」
「それでは私は倒せないなぁ!!」
 力を抜けばその瞬間飲み込まれそうになる攻撃を支えて、苦しげに呻く。そんな士郎を睨みつけ、アーチャーが罵倒とも叱責ともつかぬ言葉を叩き付けた。
「大切なモノも守れないっ!!」
 圧倒的で、容赦の無い力の前に、足は竦み、その身は後ろへと下がっていく。
「信念も貫き通せない!!」
 言葉の一つ一つが、萎えそうになる意思を叩き、傷つけ、打ちのめし……だが、完全に倒れ伏す前に、それはより強く滾らせる。
「父に申し訳ないと思わんのか!? 一歩たりとも前に進めず、それでもプライドの保持に執着する! それでも……っ!!」
 眼を見開き、万感の思いを込めてアーチャーは叫んだ。



「―――それでも、<正義の味方>を目指す男かぁ!!?」



 その一言が、士郎の中にあるあらゆる枷を吹き飛ばした。
「っうぁああああっ!! アーチャァァアアアーーーーッ!!!」
 体内を駆け巡る全ての魔術回路がオーバーロードを起こし、灼熱する。士郎の過剰な魔力と破壊の意思を注ぎ込まれたロー・アイアスは、『壊れた幻想(ブロークンファンタズム)』となって破裂した。
「何……っ!?」
 突如起こった大爆発に圧され、アーチャーは慌ててその場から後退する。
 対峙する士郎は、全身を襲う激痛を凌駕する意思を持って仁王立ちしていた。アーチャーを見据える瞳に、もはや一切の躊躇や迷いなど無く―――。
「……力が欲しいわけじゃない。ただ、誰も犠牲にせず、誰も泣かない、皆の笑顔を守りたかった。それだけだ。あぁ、そうだ。今もそうだ。その為にもこの男を倒さなきゃならないっていうんなら、もう他には何もいらない!」
 腹に抱えた<理想>という、ただ一本の剣以外、何も必要ない。そう、何故ならこの体は―――。
「いるものか―――っ!!」
 この体は、剣で出来ているのだから―――!


 ――――体は剣で出来ている
(I am the bone of my sword.)

 血潮は鉄で 心は硝子
(Steel is my body, and fire is my blood.)

 幾たびの戦場を越えて不敗
(I have created over a thousand blades.)

 ただの一度も敗走は無く
(Unaware to Death.)

 ただの一度も理解されない
(Nor known to Life.)

 彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う
(I continue forging a sword while tasting pain of eternity.)

 故に、生涯に意味は無く。
(It is the only method that I can do.)

 その体は、きっと剣で出来ていた―――。
(Therefore I execute it "unlimited blade works".)





 そこに、<世界>が完成する。
 固有結界。使用者の心象意識を具現化し、世界と成す禁術。それが今、衛宮士郎の人の器を越えた力によって成されていた。
「……そうだ、その力だ! それでいい! これが見たかった……!」
 自らも取り込まれた固有結界を驚愕と喜びに満ちた瞳で見つめ、アーチャーは満足そうに呟いた。
 何も無い荒野に無数に並ぶ剣の墓標。空は鉛色に染まり、巨大な歯車が回り続ける―――そこはまさに剣の錬鉄場。
 其処に佇む士郎は、静かに自らの手を持ち上げた。彼の意思に応ずるように、地面に突き刺さり、眠っていた幾つもの剣が空中へと浮き上がる。
 空を埋め尽くさんばかりに並んだ剣の軍団を見据え、アーチャーは臆す事無く身構えた。
「しかし、私とて退くわけにはいかん! エイリアスッ!!」
 自らが放つ剣の群れと共に、その手に黄金の剣を携えて士郎が突進する。その前に、エイリアスが立ち塞がった。しかしそれは、迫り来る無数の刃の群れによって、一瞬で粉砕される。
 黄金の閃光を放つ剣と共に、士郎は立ち止まらずにそのままアーチャーへ向けて駆け抜けた。
「よくぞ掴んだ、士郎ぉおおおお―――っ!!!」
 体に空気の壁をまとい、自身に可能な極限までその硬度を上げる。それは、成長した士郎へ課すことのできる最後の試練であり、彼へ残す答辞でもあった。









「もう、アーチャーと士郎の戦いは終わったのかしら……?」
「凛、アナタは私の後ろにいてください」
 静まり返った城の広間に顔を出し、凛とセイバーは警戒しながら静かに階段を降りた。
 ランサーの犠牲を経て、監禁されていた凛の救出に成功したセイバーは、一人でアーチャーと決闘する事を決意した士郎の元へ慌てて戻って来たのだ。
「あれは……シロウ?」
 駆け寄ると、そこにはボロボロになりながらも生き残った士郎が、片膝を突いてしゃがんでいた。そして、その正面に仰向けの男が寝ている。
「無事でしたか、シロウ。……何です? 彼は、一体誰なのですか?」
「……アーチャーだ」
「は?」
「アーチャーだよ」
 白髪、皺だらけ、弱々しい面立ち。士郎の返答に、セイバーは息を呑む。それは、あまりに変わり果てた姿で、彼女は俄かには信じられなかった。しかし、セイバーの肩越しに覗き込んだ凛が、顔を色を変えて胸元に縋りついた。
「アーチャーッ! アンタ……何やってんのよ!? 勝手に『すまない』って謝って、それで勝手に、何死に掛けてんのよっ!!?」
「おい、『すまない』って……っ! どういう事だよ、アーチャーは俺たちを殺す為に遠坂を捕まえたんじゃ……っ!?」
 それまでアーチャーが裏切った思っていた士郎は、つじつまの合わない凛の言葉の動揺する。
 喚く凛の声に、アーチャーは僅かに眼を開いた。
「……凛、か。―――すまなかった、衛宮士郎」
「なんで……」
「凛を殺すつもりなど、最初からなかった……」
 枯れ枝のようになった白い手で、彼は自らの主の頬に触れた。両手でそれを包む凛。しかし、アーチャーの目は、もはや生気を失っていた。
「聖杯が危険なモノだと知った時点で、多くの犠牲を防ぐ最良の道を考えていた……。ふっ、一時的とは言え、自らのマスターの命をあの言峰という男に預けてしまったのだから、私はひどく矛盾しているな……」
「ならば、あの聖杯を破壊すれば……!」
 もはや歪んだ聖杯を破壊する事に、何の躊躇いもないセイバーが勇んで叫ぶ。しかし、アーチャーは力なく首を振った。
「敵は強大だ……。あのギルガメッシュとまともに敵対すれば、全滅は明らか……それに、見ての通り私の力は不完全。
 ―――しかし、絶望していた私の前に、一筋の光明が現れた。士郎、君だ」
 力の尽き掛けた体で、苦しみながらもアーチャーは語気を強め、士郎の瞳を見据える。
「覚醒した君の力なら、ギルガメッシュの宝具に対抗する切り札に……っ」
「その為に、この戦いを……アーチャー!」
 もはや、そこに敵意など微塵も無く、万感の想いを込めて士郎はアーチャーの名を呼んだ。
「まだ、私を仲間だと……。士郎―――!」
 掠れた喉から声を振り絞り、アーチャーがその名を紡ぐ。
「ああ……っ」
「君は……君の理想と、理念を追い求めてくれ……!」
 その言葉を最後に、自らの信念を貫き、一人の男を導いた戦士は逝った―――。

















クラス:アーチャー
真名:マーティン=ジグマール
性別:男性
属性:秩序・善
マスター:遠坂凛
筋力:C  魔力:E
耐久:B  幸運:B
敏捷:C  宝具:A


クラス別能力
【単独行動B】
マスターの魔力供給がなくとも2、3日ほど現界が可能。しかし、一部のスキルの使用にリスクが付く。


保有スキル
【物質再構成能力A−】
その名の如く、周囲の物資を分解して任意の形に再構成させる能力。通称『アルター』
ジグマールのアルターは、二つの特性を合わせ持ち、尚且つ人為的に強化されたもので、アルター能力としてはかなりの高ランクに位置する。しかし、彼の場合は過度の強化の為か、能力の行使に大きなリスクを伴う。


【カリスマC】
生前、アルター能力者で構成された公的組織の隊長を務めていた。部下に慕われる確かな威厳を備えている。しかし、自らも国の従僕であった為、より地位の高い相手には通用しない。セイバーやギルガメッシュが該当する。



宝具
【虚ろなる隻腕の怪人と鎧(エイリアス)】
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:不明 最大補足:1〜数人
アルターによって生み出された自立稼動する隻腕の怪物と、使用者に装着する鎧の部分を指す。アルター自体はスキルだが、それによって構成された物は宝具扱いである。
両方とも『圧力を操る』という特性を備えており、周囲の空気を『吸収』『射出』など多様に変動させて攻撃や防御を瞬時に行う事が出来る。
尚、自立可動型アルターの方は肉弾戦も可能で、その身体能力はアルター能力者本人に優るほど。攻撃力も高い。
元が周囲の物質を再構成したものなので、破壊されても一から作り出す事が可能。
しかし、ジグマールのアルター能力は不完全な為、再構成から持続使用の段階で大量の魔力を必要とする。マスターからの供給が無い状態では極度の消耗により肉体(霊体)の老化現象を招き、やがては消滅に至る危険もある。




















 2月15日 UnlimitedBladeWorks 16 EDEN

 ――――――決戦『拳』



 星が見えない夜空の下、爆発が起きる。
 ただ腕の一振りによってもたらされた破壊の嵐は、士郎の体を紙屑同然に吹き飛ばした。
「く、うぅっ……」
 うつぶせの体勢から、士郎はなんとか立ち上がろうと、歯を食いしばる。しかし体が思うように動かない。
「ふっ、雑種が。身の程を知れ」
 眼下を見下ろす黄金のサーヴァント。その背後には無数の剣の軍勢が控えている。
 圧倒的な戦力差。人とサーヴァントの差を差し引いても、絶対に埋められない、一介の<贋作者>と<英雄の王>の格の違い。判っていてもそれは絶望的だ。
 そんな厳しい現実の壁に突き当たる士郎の脳裏に、不意に<声>が聞こえてきた。
「とお、さか……?」
 繋いだラインを通じて聞こえる、それは言葉にならない声。
 凛の、絶望的な現実に対して決して諦めない強い意志の叫びだった。
「……ハッ、そうか……そうだったな」
 士郎の口調が突然、懐かしむような口調に変わった。今、はっきりと思い出していた。あの時口にした『覚悟』を。
 傷ついた体で、尚も立ち上がる。
「この期に及んでも俺は、まだどこかで自分自身を守ろうと……だけど!」
 その眼に鋭い光が甦った。
「もう何も要らない!」
 心の中で、自らの誓いを口にする。
 体は。この体は―――。
「何……っ?」
 周囲の異変に、ギルガメッシュは訝しげな声を漏らした。
 変質していく。世界が、衛宮士郎の信念の形へと変化していく。それこそが、衛宮士郎に唯一許された魔術。
 固有結界<無限の剣製>―――。
「俺は、お前を倒す!」
 弱い考えに反逆しろ。
「命を!」
 拳を握れ。
「魂を!」
 立ち上がれ。
「俺を俺としている全てをかけて……っ!」





「お前を倒す!!!」

 そう思うだろう、アンタも―――!









出展:スクライド

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送