目覚めろ、その魂!!





 人が入れるはずのない。入るべき場所ではない、異界のような薄暗い森の中で動く人影があった。
 周囲を取り囲む狼の群れを睨み付ける若い青年と、その後ろに庇われ、蹲る少女だ。
 二人を囲む狼は、野生にしても在らざる狂気をその眼に秘め、獰猛な唸り声を上げる。
「正気じゃないな、こいつら。誰かが狂わせたのか」
 吐き捨てるように呟くと、青年は横から急に飛び掛ってきた一匹を殴り飛ばした。しかし周囲を囲む狼は無数にいる。別の一匹が少女の方に飛び掛った。
「イリヤ!」
 右腕を狼の口にねじ込む形で庇う。牙が突き立てられ、皮膚を破って血を滴らせたが、青年は軽く呻くだけだった。
「あ……っ、■!!」
 胸を押さえ、震えながらも少女は自分を庇った青年の身を案じた。
 無愛想で、目つきが悪く、何処か人を拒絶する、自分と似た所がある青年を。
「すぐ終わらせてやる。それまでがんばれ」
「……」
 振り返らず、ただ敵だけを見据えて告げる青年の言葉に、少女はわずかに安心した表情で頷いた。


 次の瞬間、閃光が炸裂した。









 その男は人間ではない。
 その男は超人ではない。
 苦痛を力に。力を苦痛に。凶暴な生命への執着で戦う獣。
「お話はおわり? だったらいくね。やっちゃえバーサーカー」
「……」
 少女の傍らに立つは死の具現、弱き英霊を強化するクラス、バーサーカー。
 しかし、状況を飲み込めない士朗を除き、セイバーと凛は訝しげに感じた。
 それは一見、ごく普通の青年にしか見えない。背格好はもちろん、放たれる魔力さえ、常人よりもやや強力と言った程度だ。幾らなんでもベースの英霊が弱すぎる。
「舐められたものだ。その程度の力で私と対峙するつもりか?」
 相手に油断せず、それでもセイバーは凛と言い放った。全て事実だった。
 しかし、イリヤは焦りもせずにただ笑う。絶対の信頼を持って。
「舐めてるのはそっちだ」
「何?」
 ポツリと呟き、クラス・バーサーカーの青年はゆっくりと腕をクロスさせた。


「変身!!」


 吼えると同時に、バーサーカーの体が光に包まれる。重なるように現れる異形の体。それはそのまま存在が摩り替わるかのように、バーサーカーの肉体となった。
 甲虫を思わせる緑色の甲殻に覆われたボディ。マスクのような硬質の皮に覆われた頭部に、額から伸びる二本の角。
 それはまさしく、人型を取った異形の何か。
「魔力が跳ね上がったっ!?」
 発せられる魔力が一気に上昇し、その圧倒的プレッシャーに凛が声を上げる。
「グワォォォォオオオオオーッ!!」
 それはまさに狂戦士に相応しい、獣の雄たけびを上げると、一直線にセイバーへと襲い掛かった。恐るべき瞬発力で、文字通り一つ跳びで肉薄する。
 不可視の刃を何の躊躇いもなく回避し、それそのものが武器となる腕を振り回す。
 見えない攻撃を回避させているものは、額にある第三の目(ワイズマン・オーヴ)。獣の勘を視覚化したかのような能力だ。
 バーサーカーの外殻を刃が削り、セイバーの鎧を拳が打つ。
 激しい攻防が続く。一見互角に見えるが、若干セイバーが押している。
「さすが最優のサーヴァントね。アーチャー、援護!」
 傍観している理由はない。凛の合図とほぼ同時に、虚空から銀色の閃光が飛来した。
 セイバーとの接戦の中でも、その感性は周囲に張り巡らせていたバーサーカーが、攻撃を察知して大きく後退する。コンマの差で、バーサーカーのいた場所に矢が突き刺さった。
「もうっ、情けないわよ! バーサーカー!」
「二対一だ、無茶を言うな」
 緊張感なくプンスカ怒るイリヤに対して、絶対的不利な状況に関わらずバーサーカーもまた軽くいなす。
「イリヤ」
「いいわ、狂化しなさい」
 促すような言葉に、イリヤは頷いた。
 途端に、バーサーカーの体を駆け巡る魔力が倍増する。
「グゥ……ッグゥアアオオオオオオオオオッ!!!」
 バーサーカーが再び吼えた。しかしそれは先ほどの比ではない。鎖を引き千切り、理性を吹き飛ばし、ただ力だけを表面化させようとする狂気の叫び。
 その咆哮と溢れる魔力に呼応するように、バーサーカーの二本の角が伸びた。いや、途中で欠けたかのような角の先端が完全に具現化した。
 それは、本来のバーサーカーの姿だった。
 鋼の口が裂ける様に開き、そこから溢れる狂気の雄たけび。
 バーサーカーが両腕を前に突き出す。途端に、手首から生える巨大な爪。骨から削り出した刀のような、無骨なそれを携え、バーサーカーは先ほどの倍近い速度でセイバーに襲い掛かった。
 その一撃を受け止めたセイバーの小柄な体が後方に吹き飛ぶ。
「くっ!」
「セイバー!」
「なんてパワーっ!?」
 比べ物にならないほど増した力と狂気に、士朗と凛は驚愕の声を上げる。
 バーサーカーはその凶暴な力と意思を、そのまま荒れ狂わせた。凛に襲い掛かろうとした爪の一撃を駆けつけたアーチャーが双剣で受け流す。
 しかし左右の斬撃を受け流した所で、下方から迫る第三撃がアーチャーの肩を切り裂いた。
「ちっ、踵にも爪が……っ!」
 鮮血の隙間から見えるバーサーカーの右足には、鎌のような刃が鈍い光を放っていた。
 正面のアーチャーが双剣を構え、衝撃から立ち直ったセイバーが不可視の剣を振りかぶる。
「グワォオオオオオオオーッ!!」
 それをバーサーカーの狂気が迎え撃った。




 力は苦痛に。

「ぐ……っ、ぐぁああっ!!」
「バーサーカーッ!?」
 城に帰った途端。正確には変身を解いた途端、バーサーカーはその場に蹲って苦しみ出した。体中に走る激痛でのた打ち回る彼を、イリヤが全身で必死に抑える。
 やがて、苦痛の峠を越えたバーサーカーは、自然と霊体化し、体を休めるように消えていった。











 それは、不完全な力を手に入れた代償。
 人を超えた存在となった、魂への罰。


 そんなもの、望んではいないのに……。



 屋根の上で夜空の月を眺めていると、隣にイリヤが腰掛けた。
 呟くように、イリヤは言葉を紡ぐ。
「ねえ、誰にも頼んでいないのにそんな体になって……どうしようもない苦痛に蝕まれて……辛くないの?」
 イリヤもまた、作られた存在。
 生まれながらにして、運命を背負わされた。
 望んだわけじゃない。誰も頼んでいない。それでも、背負わされたものは消えない。
「……辛いさ」
 バーサーカーの呟きが答える。
「でも、それでも生きるしかない……」
 その言葉に、重い、幾つもの意味を込めて紡ぐ。
「生きる……か」
 イリヤが。
 イリヤだけが、その言葉少ない彼の想いを噛み締める事が出来る。
 どこか似た二人は、ただ静かに夜の空を見上げる。









 苦痛を、力に。


 突如、アインツベルンの城を黄金のサーヴァントが襲撃した。その凄まじい力は、狂化したバーサーカーさえ圧倒する。
 飛来する無数の宝具の一発が、バーサーカーの右腕をあっさりともぎ取った。
「ッガ、ァアアアアーッ!」
 腕を失った激痛に、バーサーカーが悲痛な雄たけびを上げる。
「バーサーカー!」
 膝をついたバーサーカーに駆け寄ろうとするイリヤをセラとリズが慌てて抑えた。敵の目的は明らかにイリヤだ。
 だが、それでも彼女はバーサーカーの元に駆け寄りたかった。どうせ死ぬのなら、せめて彼の傍にいたかった。
 彼は同じだったのだ。作られた自分と同じ。
 初めて同じ痛みを共有できた相手。
「ふっ、他愛も無い」
 前アーチャー、ギルガメッシュが右腕を失ったバーサーカーを見下す。もはや塵ほどの価値も無い物を見るように。
「……っ逃げろ!」
「嫌! 嫌だよぉ!」
「いいから、行けッ! あの士郎という奴の所へ行くんだ! お前にはまだ居場所がある! ……ッリズ! セラ!」
 バーサーカーの叫びと願いを受け、二人の侍女はイリヤを半ば強制的に抱き上げ、城の出口に向かった。
「いやっ、離して! バーサーカァァーッ!」
 イリヤの涙と叫びを背に、バーサーカーは満身創痍の体を持ち上げた。
 彼女を逃がす為に。
 あの幼い少女が、もはや自分には無い居場所へ辿り着くのを助ける為に。
 ただ一人、最強のサーヴァントに立ち向かう。
「我に刃向かうか、雑種が。貴様など時間稼ぎにもならん。一瞬で消滅させ、それからあの聖杯の心臓を抉り出してやろう」
 嘲る様にギルガメッシュが笑う。周囲から先ほどバーサーカーを襲った攻撃と同じくらいの数の宝具が再び出現する。
 それはバーサーカーを跡形も無く消滅させるだろう。
 しかし、
「……やってみろっ!」
 無様に、往生際悪く、地べたに這いずり、それでも命を捨て切れない。
「ッッグゥオオオオオオオオオオオーーーッ!!!」
 吼える。
 天を仰ぎ、獣は全てに向けて咆哮する。
 迫る敵に。
 迫る死に。
 苦痛に。
 全力で抗い、吼えた。
「何っ!?」
 ギルガメッシュが驚愕の声を上げた。
 雄たけび中心。バーサーカーの体から、有り得ない程の魔力が放出されている。禍々しく、凶暴なまでの力が溢れている。
 溢れる強大な力に呼応するように、もぎ取られた右腕が一瞬で再生した。しかもただの再生ではない。新たに生えた右腕には、歪な鎌のような形の角が生えていた。
 そして、それに続くように左腕に、次に背中に、まるで地盤が隆起する様に角が皮膚を突き破って生え出てくる。
 赤く太い血管のようなものが外皮に浮かび上がり、胸が裂け、そこから<ワイズマン・モノリス>が浮かび上がってきた。
「バケモノめ……っ!」
 そのあまりに禍々しい姿に、ギルガメッシュが呻く。
 凶暴なまでの意思が具現化したバーサーカーの姿。
 宝具などという大層な物など無い。
 ただの己の肉体のみが、彼の者の最大の武器。
 そして彼は吼える。
 かつてそうして、迫り来る多くの痛みに抗い続けたように。
 吼える。




「グワォォオォォオオオオオオーーッ!!!」




 目覚めろ、その魂!!

















クラス:バーサーカー
真名:ギルス(葦原涼)
マスター:イリヤスフィール・フォン・アインツベルン
属性:中立・中庸
性別:男性
能力値
筋力:A(A+)
耐久:B(A+)
敏捷:A(A+)
魔力:C(B)
幸運:E
宝具:EX
()内はエクシードギルスへと二段変身した場合。


クラス別技能
狂化:D
魔力が全身に行き渡り、全力状態になる事で頭部のツノ(ギルスアントラー)が変化する。本来ならば常に理性を失い能力を強化するが、ギルスの場合は興奮状態にはなるが、理性は完全には無くならない。
さらに、ギルスは不完全な変身の為、狂化の代償として涼の体を苦痛で蝕んでいく。これは魂に課せられた制約なので、英霊になっても決して消えない。


保有スキル
心眼(真):A 額にある橙色の第3の目(ワイズマン・オーヴ)。敵の動きや弱点を察知できる。
自己改造:B 自らの肉体を武器に変える。ギルスクロウ、ギルスヒールクロウ、ギルスフィーラーなど。


宝具
【賢者の石(メタルファクター)】
ギルスの腰に巻きつけられたベルト状の宝具。中央に賢者の石を持ち、パワーの源を作り出す。変身者の体内に融合拡散しているが「変身」の意思(真名の解放に当たる)で物質化、全身を強化する。


【第二の賢者の石(オルタリング)】
不完全にしか発動しないギルスの賢者の石を補うべく、後に埋め込まれたもう一つの賢者の石。明確な形状はない。二重で発動する事により、全身を更に強化。<エクシードギルス>の形態へと二段変身する。



英霊化の理由
アギト化する人類を滅ぼそうとした「闇の力」を、アギトと共に打ち滅ぼした為。
更に、不完全なアギトとして覚醒した魂は歪んでおり、イレギュラーな魂として世界に囚われ、抑止力としての活動を余儀なくされる。







出展:仮面ライダーアギト
   仮面ライダーアギトPROJECT G4

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