ACT5「幻想」



 ダンテはポーカーフェイスを装いながらも混乱していた。
 建物の屋根から屋根へと高速で跳び移る曲芸で教会への最短ルートを辿り終えたと思ったら、そのゴールの入り口手前で槍を掲げたランサーの足元に、左腕の肘から先を切り落とされたかのように失くしたバゼットが倒れている。
「……お前がやったのか?」
「さあな」
 油断無く銃を構えながら尋ねると、ランサーは自嘲気味に返した。経緯や理由、その真偽さえ何も話そうとしない。
「そうか……」
 ダンテは舌打ちする。
 短い付き合いだがランサーの性格は分かっているつもりだ。彼は己の失態を言い訳するような男ではない。そして主従の関係抜きにしても、信頼し合うバゼットを裏切るような男ではないと言う事も。
 何か理由がある。
 そして、自分はこの最悪の結末に間に合わなかったと言う事だ。
「クソッ! ……じゃあ、言い訳は聞かねえぞ。お前をぶっ殺してバゼットを連れて帰る」
「……すまねえ」
 決断したダンテに、ランサーは本当にすまなそうに眼を伏せると、次に開いた瞬間に殺意を持って敵となった。
 真紅の槍を構え、ダンテと対峙する。一瞬、バゼットの方を一瞥したが、弱いながらもまだ呼吸をしている事を確認すると、安堵したように思考を切り替えて目の前の戦闘に徹した。
 ダンテは銃を仕舞うと、背中の剣を抜き放つ。正面対決ならば最速の英霊に小細工は通用しない。ランサーには<矢除けの加護>がある、とも聞いていた。目に見える飛び道具は通用しない。
 剣と槍。
 既に闘争の道具としては歴史に押し流された古来の武器が圧倒的神秘を持って対峙する。月に照らされた、教会を背景に。
 片やこの世に再臨した太古の英雄。そして片や闇の眷属たる悪魔の混血。その二つの激突。
 今宵、再び幻想が降り立つ。




 始まりは唐突だった。
 何の前触れもなく、互いに呼吸を合わせたわけでもない。
「ハァッ!」
「フンッ!!」
 しかし全く同じタイミングで、二人の武器が交錯した。
 ダンテがまるで滑るように地面を走り、残像を残すほどの加速を経て全身で剣を突き出す。そのスティンガーミサイルのような一撃を迎撃するべく、真紅の槍が同じく人外の速度で突き出された。
 激突と同時に火花が散る。
 そして、ランサーの槍が弾き飛ばされた。
「くっ!」
 速度と体重、そして魔力。その全てを一点に集約した体全身をバネに使った刺突は、英霊の力を押し切るだけの威力を秘めていた。しかし、その一撃は剣を振り切ったダンテにもわずかな硬直を与える。
 刹那の空白。
 そして時間と共に再び剣戟が再開した。
 全く性質の異なる武器が、人外の速度で空を斬り、打ち合い、炎を撒き散らす。それぞれの武器の性質、弱点、物理法則、その全てが無視された幻想の中の戦いだった。
 かつて、共に酒を飲み交わした二人はここにはおらず、完璧な殺意を持って必殺の一撃を交差し合う敵同士がそこに存在した。
「ハッ!」
 鋭い呼気と共に、ランサーが真紅の連撃を放つ。
 マシンガンのように突き出された矛先は無数の<点>の攻撃。全てを捌くコトなど不可能だ。
 しかし、ダンテの対応は常軌を逸していた。
 回避も、防御も考えずにその<点>を攻撃する。繰り出されるのは剣による刺突。重厚な剣をフェンシングのようにしならせ、恐るべき速度で連続した突きを放つ。その一撃一撃が削岩機のごとき威力を誇る。
 激突する無数の音は、しかしあまりの速さにまるで一つに聞こえ、二人の間に幾つもの火花が炸裂した。全ての突きが同じ突きによって迎撃されたのだ。
 一瞬にして無限の交差の後には、血に濡れた真紅の魔槍と雷を纏う魔剣ががっちりと刃を噛み合せていた。
 ギリギリと拮抗し合う刃と共に、ランサーとダンテの視線が交わる。そこに幾つもの言葉を込めて。
「お前……っ!?」
 ダンテが睨みつけながらも、驚愕の色を瞳に滲ませる。ランサーはそれがこちらの意図を理解したと受け取ると、黙って頷いた。
「気づいたか?」
「ちっ、馬鹿野郎が!」
「バゼットを頼むぜ……やれっ!」
 小声でわずかな意思疎通を図ると、ランサーの言葉に答えるようにダンテが剣を大きく振り抜いて刃を離し、自らも大きく後ろに跳んで間合いを取った。
 それを追撃するように、ランサーが踏み込んで槍を突き出す。
 しかし、ダンテにはそれが『分かっていた』
 一直線に心臓に向けて突進してくる攻撃を絶妙のタイミングで上空に逃げて回避する。空中で体をきりもみさせながらダンテは銃を抜き放った
 照準の先で、振り返ったランサーと視線がぶつかり合った。
 ダンテが自らの両腕の延長にある銃身へと、ほとばしる魔力を集中させる。腕を通し、銃身を通し、弾丸に纏わり、銃口へと一点に集中された紫電の魔力。それが引き金を引くと同時に一気に炸裂した。
 銃にチャージされた魔力がレールガンのように銃弾を超加速して発射する。大砲のようなその一撃は、一瞬でランサーに肉薄して防御に回した槍ごとその体を吹き飛ばした。
 ランサーが転がりながら石畳を滑り、ダンテが華麗に着地する。
 丁度立ち位置が入れ替わった形になる。その足元には、今だ弱い呼吸を続けるバゼットが横になっていた。
 ダンテは傷に触らぬよう、そっとバゼットの体を片手で抱え上げた。視線の先には立ち上がるランサーが見える。片手に銃を持って警戒しているが、相手は飛び掛ってくる様子もない。
 ダンテとランサーは静かに互いの視線を交差させた。その瞳に、決意を宿らせて。
 言葉はなかった。ランサーが小さく頷き、ダンテがそれに応えるとランサーは槍を構えた。
 まるでそれが合図であるかのように、バゼットを抱えたダンテは素早く踵を返してその場を離脱した。ランサーは追わない。
「……あばよ、いい女。こんにちわ、クソ野郎ってか」
 槍を下ろし、ランサーはこれから始まる囚人のような生活を思い、脱力するように呟いた。
「あの男は何者だ?」
「……バゼットの雇った便利屋だ」
 再び戻った静寂の中、ランサーが佇んでいると、教会の中から姿を現した言峰が憮然と尋ねてくる。その忌々しい声に、ランサーは小さく舌打ちして答えた。
「人間ではないようだったが?」
 死に掛けのバゼットを介錯に向かったランサーを見送った後、突如現れた巨大な魔力に様子を伺ってみれば、生身の人間が英霊と互角に打ち合っているのだ。そして何より、教会の代行者として魔に対して働く勘が、あの銀髪の男から闇の存在の気配を感じ取っている。
 言峰はわずかながらも驚愕を感じていた。これはイレギュラーだ。
 そんな言峰の様子に、ランサーはニヤリと不敵に笑って答えた。
「ああ、そうさ。アイツは人間じゃねえ、悪魔だ。アンタのような神に仕える人間を、いずれ殺しに来る化物さ」
 自由を奪われた猛犬は吼える。主となった男の死を夢見ながら。
 そして、いずれ再び目の前に現れるであろう、悪魔との再会を待ち侘びながら。







 月明かりの下、マスターの後に従い教会へと向かう道で、延々と汚物のように悪態を吐き続ける男の声を適当に聞き流しながらキャスターはぼんやりと思考を彷徨わせていた。
 彼女のマスターは正規の魔術師だった。年の頃は三十代で、中肉中背で、あまり特徴のない男だった。
 戦う気もないくせに勝利だけを夢見ている、ほかのマスターたちの自滅を影で待っているだけの男だった。
 男は、キャスターを信用しなかった。魔術師として優れたキャスターを疎み、他のサーヴァントに劣る彼女を罵倒した。
 見切りをつけるのに数日とかからなかった。
 つい数時間前に遭遇したサーヴァントとそのマスターに思いを馳せる。
 優れた魔術師と英霊だった。
 槍を持つランサーのサーヴァントは疾風の如き動きで正面から攻撃を仕掛けてきた。余計な小細工などない、まさしく真の騎士たる戦いぶりだった。そして、矢のように轟然と直進する彼を寡黙な女性のマスターが的確にサポートしていた。
 二人で一つの生き物のように、ピッタリと呼吸のあったコンビネーション。最弱などと不名誉な烙印を押されたサーバントの自分と、三流と彼女が評価する卑小なるマスターのコンビなどで適う道理などない。そんな風に奇妙な確信をしてしまうほど優秀な二人だった。
 何より、キャスター達にはない信頼関係があった。お互いがお互いの背中を任せ合える絶対的な信頼感が。
 そうだ、これはおそらく羨望なのだろう。
 もしも、あの女性が自分のマスターだったら。きっと自ら前に立ち、自分に最適の場所を与えてくれるだろうに。この身に、サーヴァントとして最大の力を発揮できる戦場を提供してくれるだろうに。
 キャスターはそんなIFを考えながら、何とも夢見がちな考えに自嘲の笑みを浮かべた。『もしも』はない。彼女はこの戦争においてハズレを引いたのだ。
 不意に、頬に衝撃を受けてキャスターは我に返った。視界には顔を醜く歪めて睨みつけるマスターたる魔術師がいた。
「な、な、何がおかしいっ!? そんなに俺が滑稽かぁっ!!? 俺を見て笑ってやがったんだろうぅっ!!?」
 どうやら自嘲するキャスターを目ざとく見咎めたらしい。自意識過剰な男だった。
「いいえ、そのような事は」
「うるせえ、黙れ!」
 反対の頬を叩かれる。サーヴァントの身と言えど痛みは感じる。ましてやキャスターは身体能力においては常人より多少上程度だ。じんじんと痛む頬を、キャスターは意識から切り離した。
 自分より弱い相手、自分に逆らえない相手には過剰に優位を誇示したがる。マスターはそんなワリとくだらない人間だった。
「お前のような無能を召還したせいで、俺がどれだけ苦労してると思ってやがる! こ、この愚図がよぅ!」
 およそ学を究める魔術師とは思えぬほど作法のない粗野な言葉遣いでキャスターを罵る。
 実際、この男が口調を正して話すのは余裕のある時だけだ。少し逆境に追い詰められるだけであっさりとメッキは剥がれ、このような錆びた地刃をさらけ出す。
 外聞を気にして見栄だけは張りたがる、そんな卑小な器だった。
「畜生、痛え……あのクソ女ぁ……っ!」
 キャスターを殴ったのとは反対の手を掴んで呻く。包帯の巻かれたその傷跡は、バゼットとランサーとの戦闘で彼が受けたものだった。
「銃なんて使いやがって、魔術も使えねえ三流がっ! 女のくせによぉぉっ!!」
 既に治療を済ませてある傷の痛みをしつこく思い出しながら喚く姿はキャスターから見て滑稽だった。言っている内容も見当違い甚だしい。
 バゼットの扱う二丁の黄金のルガーは、神話の時代に生きるキャスターにはなじみのない武器ではあったものの、そこから放たれる鉛弾に強力な魔力を付加させている事は察知できていた。あれならばサーヴァントにも通用するだろう。それに気づかない男こそが三流だ、と心の中で皮肉る。何より能力を見ずに「女だから」と卑下する時点で彼の底が知れた。
 今も彼の抱える傷をキャスターに治療させようとはせず、自らの未熟な治癒魔術を施し、残る痛みにいちいち悪態をついている。それが、キャスターが自身より優れた魔術師だと認めたくないだけだと言うあたり救いようがなかった。
 痛みに唸る男の瞳には狂気にも似た憎悪が燃えていたが、それを実行する力も度胸もない。呪うだけで人を殺せると勘違いしている。
「マスター、やはり私が治療を」
「うるせえ、触るんじゃねえ! てめえが役立たずだから俺がこんな目に遭うんだろうがぁ!」
「……しかし、だからと言って監督者に協力を仰ぐのは危険です。手を貸す可能性は低いですし、他のサーヴァントとの遭遇の危険性も……」
「黙れ、俺に指図する気かっ!?」
 とりつくしまもない。
 サーヴァントを失ったマスターを監督者が保護する、というシステムを思い出した男は何を思ったか傷の治療と協力を仰ぐ為教会に向かうと言い出した。キャスターの作った陣地から出る事は危険極まりない上に、軽率な判断だったが、もう彼には何を言っても無駄だと半ば諦め切っていた。こちらが意見するほど反発して墓穴を掘る。
 このまま聖杯戦争をリタイアしそうな気さえしていた。あるいは教会へ向かうのは、気弱なこの男が逃げ場を模索する気持ちもあるからかもしれない。
 そんな事を考えると、キャスターは酷く自分が惨めな気がして泣きたくなった。
 聖杯を求め、こんな時代まで来て、一体自分は何をやっているんだろう―――?
 今だ飽きもせずぶつぶつ呟きながら歩くマスターの後に続き、再びそんな思考の海に溺れる。考えるだけ自虐的になるのだが、考えずにはいられない。
 そして彼女達が市を二分する橋を渡り終え、さらに教会へと続く道を進んでいると、不意にキャスターは接近する魔力を感知した。
「マスター、魔力が近づいています」
「な、なにぃ!?」
 慌てふためく男を庇うように前に立って、形だけでも男の好む反応をしてやる。<信頼>など期待していない、ただいずれ男を見限る時の為に気を許させる目的で。
 そしてキャスターは、目の前に降り立つ真紅の外套を着た狩人を見た。







 屋根から屋根へと赤い影が跳んで行く。
 ダンテは風を切り、人間では有り得ないスピードで移動していた。片手に抱えたバゼットに振動が行かないように配慮したその動きは芸術的と言ってもいい。音もなく、静かに、しかし速く跳躍する。
 時折背後を振り返り、彼らの拠点であるホテルへの進路もわざと遠回りするように移動しているが、ランサーが追って来ると言う懸念は杞憂に終わったようだった。
 本来ならすぐに治療の為に戻りたかったが、ランサーはホテルの位置を知っている。向かう道の途中での襲撃は十分にありえた。
 最も、ランサーがランサーのままであると言うのなら、わざわざ『逃がした』自分達を追うなど有り得ないことだが。
 ―――そう、ダンテはあの時ランサーに逃がされた。
 気づいたのは攻撃の時。ランサーの攻撃の軌道は全て<突き>のみであり、リズムも酷く単調だった。故に、ダンテはランサーの攻撃を予測し、逃げ果せる事が出来たのだ。
 そして更に幸いだったのは、バゼットの傷が既に止血されていたと言う事。
 おそらくバゼットが気絶する寸前に自ら仕掛けた物なのだろう。彼女の傷口を覆うようにルーンの魔力が輝いている。それはマクレミッツの家系に受け継がれてきたルーンの魔術刻印と合わせて<再生>の作用を促し、血を完全に止めている。このままならば、傷が完治する事はないだろうが失血によって死に至る事もない。
(とんでもねえタフさだぜ。マジでいい女だよ、アンタ)
 感心しながら愉快さを隠せずに笑う。華奢な外見に似合わない、肉体的にも精神的にもタフな女。魅力を越して尊敬すら抱いていた。
 だが、もちろん事態が安心できる方向に転んでいるわけではない。魔術の行使には魔力を消費する。バゼットの命を維持しているのは自分の力であり、それは無限に循環するわけではない。一方的に消えていくだけなのだ。何より、傷を負ったショックと失血で衰弱が酷い。
 ダンテは決断し、それまでの迂回コースをそろそろ修正するべく無言で足を速めた。
 その時、不意に背中のアラストルが魔力に反応した。
「何……っ!?」
 今、この街でアラストルが反応する程強大な存在はサーヴァントしかない。走る事に集中していたダンテは一瞬判断が遅れ、その勢いのまま建物の屋上から道路に跳び出してしまった。短い距離を落下し、着地は衝撃を最小限に緩和して行う。
 しかし、降りた先。その道路の延長上には、魔術的装飾を施した紫のローブを来た女と、その後ろに隠れ、眼を剥いて驚く男が立っていた。
 女の方から人間ではない匂いを感じ取って、ダンテは思わず舌打ちした。背中の剣が騒いでいる、間違いなくサーヴァントだ。
「な、なな……っ!?」
「サーヴァント……ではないようね?」
 慌てふためくマスターとおぼしき男の言葉を紡ぐように、ローブの女が尋ねる。深く被ったフードの下から見えるわずかな表情は酷く平坦だ。男の方はともかく、サーヴァントの方は油断ならない。
「キャスターだな」
 疑問ではなく、断定する。ダンテはランサーから聞いた、キャスターとそのマスターのコンビの情報を思い出していた。
 そして同じく、キャスターとそのマスターもダンテの抱える傷を負った女に気づいていた。
「……ランサーのマスター。なるほど、手負いというわけ」
「それはお前さんも同じだろうが」
 敵が有利を悟る前に釘を刺す。ローブで隠しても、ダンテにはキャスターの負ったゲイボルグ特有の傷の匂いが察知できた。あの真紅の矛先には傷の治りを遅くさせる呪いが掛けられていたハズだ。
 威嚇するように、キャスターに殺気を叩きつける。魔術に長けた彼女ならばこの身が人間ではないと言う事もわかるだろう。
 今、事を構えるのは互いに得策ではない。
 しかし、その思惑も後ろの男が上げた狂ったような笑い声に掻き消された。
「ひっ……ひはははっ! なんだよぉ、その様はぁ! さ、三流のクセに粋がってでしゃばるからそうなるだぜぇええ! ぎゃははははっ!!」
 男はバゼットから味わった屈辱とこれまで溜め込んだ鬱憤を晴らすかのように、下卑た笑い声を盛大に上げた。そこに体裁や外聞などない。彼の本性が剥き出しに現れていた。
 ダンテがそれに対して、見るに耐えないとばかりに顔を顰める。
「耳障りだぜ」
 その気持ちをストレートに言った。
 男は激昂しかけたが、サーヴァントではないダンテを前に己の有利を理解すると打って変わった仰々しい会釈をする。
「これは、失礼。君はその女と知り合いかな? 聖杯戦争においてマスター同士は戦うものだ。故にその女は私の敵。置いて行くがいい、始末は私がつけよう」
「糞して寝ろ」
 芝居の掛かった男の口上を完全に無視して、ダンテは拳を握ると中指を立てて突き出した。途端に男の顔が怒りで真っ赤に染まる。安いメッキだ。
「……っぎ、貴様ぁ! 下手に出てりゃツケ上がりやがって、小僧がよぉ!! カッコつけて死にやがれぇ! キャスター、あの野郎を殺せっ!!」
「マスター、しかし彼は……」
「うるせえ! やれったらやれ!! 女は殺すなよ、生け捕りにして俺の玩具にしてやる! 女のクセにでしゃばった報いを思い知らせてやるぜ、ひぇへへへへっ!!!」
 キャスターの言葉も聞かず、男は一人悦に浸って笑っていた。
 ダンテはもはや言葉もなく、「救いようがねえな」と心の中で呟いて視界から男を排除した。
「苦労するな」
 肩を竦めてキャスターに笑いかける。マスターの手前、キャスターは何も言葉を返さなかったものの、ダンテが確認できるほどわずかに、整った口の端を持ち上げた。疲れたような笑みだったが、それは確かにダンテの言葉にユーモアを感じて笑っていた。
(なんともやりづらいな……)
 奇妙な意思の疎通を経て、ダンテは苦笑しながら内心ぼやく。
 サーヴァントが油断のならない戦闘力を誇る事はわかっているが、それとは別に美女と殺し合いをする事ほど気の進まないものはない。
 ダンテは抱えていたバゼットを静かに地面に下ろすと、背中の剣に手を掛けた。
 長引かせている時間も、余裕もない。抱えるハンデは瀕死の怪我人一人。
 今宵光臨する、三度目の幻想―――。










「それじゃあ……悪いけど死んでもらうわ」
 宣言すると同時に、キャスターが一呼吸で詠唱を終え、砲弾の如き魔力弾を放った―――。










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