ACT3「誘い」
鉛の衝撃が地面に叩きつけられると同時に、爆音が響き渡った。『斬る』のではなく『叩き伏せる』事を目的とした無骨な刀身が地面に小規模なクレーターを作り上げた。それはもはや斬撃などではない、爆撃にも等しい一撃だ。
しかし、その強烈なインパクトの瞬間にダンテはすでに跳躍していた。
バーサーカーの背丈を軽く越えるほどの跳躍で華麗に夜空を舞う。弧を描くジャンプの後は10点満点の着地を決める。同時にそれはバーサーカーとの間合いを取っていた。
不敵に笑うその顔は、目の前の爆撃機に対して恐怖など抱かず、また一部の油断も持ってはいなかった。
「さあ、かかって来な。悪魔は慣れてるが、英雄相手は初めてだ」
軽口を叩く彼の瞳の奥では、これまで見たこともない暗い情熱が燃えていた。
背中の大剣を抜き放ち、デモンストレーションのように振り回す。濁った夜の空気を切り裂くその刀身からは、振るたびに紫電がほとばしっている。
イリヤはようやく敵の異常性に気づいて息を呑んだ。
彼女の眼にははっきりと見える。赤いコートの上から立ち上る、業火のような魔力が。そして彼の持つ剣に秘められた桁違いの神秘が。
彼もまた、人間を超越した<化物>だ。
「バーサーカー……」
だが、彼女もまた敵を恐れてはいなかった。
「やっちゃえ!」
何故なら自分を守るこの巨人は、最強にして無敵だと確信出来るのだから。
『■■■■■ーーーッ!!!』
幼い主の信頼と命に応えて、狂える巨人が猛烈な勢いで突進した。
剣を構える姿勢にも、突進する体勢にも、そこに剣術など技術の欠片も見られない。しかしただ速く、ただ強い。技を超えた純粋な力(パワー)―――!
巨人が鉄塊を振り下ろし、ダンテはその圧倒的斬撃に正面から応えた。
巨大な斧剣と魔剣がぶつかり合う。
激しい火花と金属のぶつかり合う音が響く。次の瞬間、ダンテの体が薙ぎ払われるように吹き飛んだ。
「うぉおおおおーーーっ!!?」
そのまま森に突っ込んだダンテは衝突した木々をへし折って、ようやく停止した。
考えれば当然の結果だ。純粋なパワーで打ち合って勝てる道理がない。知性を犠牲に肉体を強化したバーサーカーにして、根本的に体格から武器の質量まで違う。
「シット! 正面勝負じゃ話にならないぜ!!」
舌打ちしながらダンテは倒れた木々の間から抜け出した。
常人ならば全身の骨が粉々になっても不思議ではないが、彼の強靭な肉体は痛み以外に大したダメージを負った様子もなかった。爆発のような一撃を受けた剣も刃こぼれ一つない。
バーサーカーが猛牛のように追い討ちをかけるのを確認して、ダンテは素早く森から抜け出した。あの攻撃の前には木など障害物にはならない。逆にこちらの行動が制限されてしまう。
嵐の様な乱撃を紙一重で避けながら、ダンテは元の開けた場所へと戻った。
森の中から爆音が響いて、バーサーカーが飛び出してくる。鋼の巨体が空高く跳躍する姿は撃ち上げられた砲弾のようだった。
「シィィィッ!!」
噛み締めた歯の隙間から鋭い呼気を漏らし、ダンテは再び敵の斬撃を迎え打った。今度は攻撃を逸らすように剣を叩きつける。
一撃一撃に死を纏う攻撃を、ダンテはかろうじて受け流していた。
敵と比べて体の小さいダンテの方が剣の戻りも速いのは道理だ。しかしバーサーカーはそんな理屈さえ力でねじ伏せていた。単純に相手の動きの方が速いのだ。
「っがぁああああああっ!!」
マシンガンのような勢いでバズーカが発射される。そんな冗談じみた攻撃をダンテはほとんど限界すれすれの力で逸らしていく。
夜の闇を剣撃の火花が引き裂き、吹き荒れる剣風が空気を撹拌する。まさに嵐のような斬り合いだ。
現状はかろうじて拮抗していた。
そう、拮抗しているのだ。世界の神秘の中でも最高峰たる英霊が、生身の人間との斬り合いで拮抗した状態に陥っているのだ。
「何やってるのよ、バーサーカー!」
イリヤが苛立った声を上げる。
それに反応して一瞬視線を走らせたダンテは、現状を打破する方法を思いつきニヤリと笑みを浮かべた。イリヤの背に戦慄が走る。
それまでただひたすら攻撃を受け流していたダンテが動いた。
渾身の力で一撃を受け流す。弾かれるように大きく逸れたバーサーカーの斧剣。その隙を突いてダンテは跳躍した。バーサーカーの胸板を蹴り上げて、空高く。
それまで圧倒的な力を振るっていた敵まで利用した、キチガイじみたアクロバットにイリヤも思わず息を呑んだ。恐るべき技量と度胸だ。
高々と空中を舞ったダンテは、そのままならば狂剣のいい的になるだろう。しかし、素早く剣を背中に固定すると、ガンホルダーから二丁の銃を抜き放ち、空中で不自然な姿勢のまま狙いを定めた―――イリヤに。
「……っ、バーサーカーッ!」
『■■■■■ーーーッ!!』
主の声に応えて、狂戦士が弾ける様にその射線に割り込む。白と黒の獣が吼え、弾丸を吐き出したが、間一髪それはバーサーカーの鋼の肉体に弾き返された。
空中で恐ろしく正確な射撃をこなしたダンテは、不発に終わったその結果に悪態をつく事もなく優雅に着地する。
二人の間合いは大きく離れていた。ダンテの狙い通りに。
イリヤが射殺さんばかりに睨みつける。瞬殺するはずの相手に、逆に手玉に取られたのだ。
「やれやれ、英霊ってのはマジで規格外だな。他の奴もこんなに桁違いなのか?」
「そんなワケないでしょ、私のバーサーカーが最強なだけなんだから」
痺れの取れない手をブラブラ振りながら呆れたように苦笑するダンテに、イリヤが不満そうに言い返す。
(さあて、どうするか……)
不敵な笑みを浮かべたまま、ダンテは夕食に何を食べるか選ぶのと同じような軽い調子で思案した。
現状は互角とは言い難い。まだ一太刀も入れていないが、目の前の巨人の鋼鉄の肉体に生半可な攻撃が通じるとは思えなかった。魔力の乗った銃弾を弾くような化物だ。
何より先ほどの衝撃がまだ腕に残っていて痺れが取れない。常軌を逸した攻撃力だ。
まさに強敵。絶望的なまでに強い。
―――しかし、初めてではない。
確かに敵は強大だが、これまでにこんな苦境を味わった事がないというワケではないのだ。
(さっきの斬り合いで、少し魔力を吸ったな……)
恐怖を感じない魔の器物である、背中の大剣が高揚するように紫電を放ち続ける。ダンテはその刀身に、わずかながらも魔力が蓄積されているのを確認した。
「あなた、人間じゃないみたいね。背中の魔剣は魔霊が宿ってるみたいだし、それだけの呪いに人間が耐えられるハズないわ」
イリヤがダンテを睨みつけながら言った。その視線にはもはや油断や嘲りなどなく、ダンテを完全な『敵』と見なしていた。
ダンテはその様子に苦笑した。感受性の強い子供は無意識下で悪魔の瘴気を警戒し、恐れる。彼の中に流れる魔の血が少女には分かるのだろう。
「惜しいな、人間じゃないのは半分だけだ。お嬢さんも、どうやら同類のようだがな」
「へえ……」
イリヤの声の温度が絶対零度に変わる。
「なんとなく分かるのさ。コイツもそっちのデカブツばかりに反応してるわけじゃないようだしな」
背中のアラストルを指して答える。
少女から放たれる桁違いの魔力、そして何よりダンテの嗅覚が異常を嗅ぎ取っていた。目の前の少女は純粋な人間ではない。
だが、悪魔でもない。魔力が澄んでいるし、何より悪魔には心がないのだ。
「おしゃべりしすぎたみたいね」
ダンテの思考を遮って、イリヤが冷たく告げた。余裕の笑みは消え、その瞳には明確な殺意が宿っている。どうやらダンテは少女の触れて欲しくない核心に触れてしまったらしい。
「次で死んでもらうわ」
少女の下僕がその巨大な一歩を踏み出す。噴き出す殺気と威圧感は先ほどよりも増しているように思えた。
「―――アイツを殺して、バーサーカー」
無表情に、銀の天使が宣告する。
『■■■■■ーーーーッ!!!』
そして死が吼えた。
ほとばしる魔力を携えて太古の英雄が走る。
その死の具現たる姿を視界に捉えながら、ダンテは不敵に仁王立ちしたままだった。
迫るバーサーカーの殺気に、背中のアラストルが狂ったように雷を放って叫びまくった。
殺せ。殺せ。この刃を使い、この魔力を振るい、敵を殺せ―――!!
頭の中に引き金を思い浮かべる。魔剣の力を爆発させる為の引き金を。
「パーティーはこれからだっ!」
ダンテは嬉々としてその引き金(トリガー)を引いた。
そして、閃光。
魔剣アラストルは魂を持つ器物。雷の魔人アラストルが武器として物質化した姿だ。
本来あるべき肉体を捨てたアラストルは生命を宿した刃となった。故にその身に魔力は纏えても、魔力を生み出す事は出来ない。魔力を生み出せる者は肉体を持つ者だけだ。
しかしその代わりに、物質に変じた魔霊は外部から魔力を吸収する事が可能だった。かつて魔力を使役する存在だった経験が生かされ、アラストルは戦いの場で放出された魔力を少しつづ蓄積する事が出来るのだ。
そして、その蓄えた魔力は肉体を持たない魔霊に代わり、持ち主を寄り代にしてかつての魔人の力を具現化させる。
故に、その者は<魔人>となる―――。
「ハァアッ!!」
裂帛の気合いと共にダンテが剣をすくい上げた。雷を纏う斬撃は圧倒的な魔力の衝突と共に、振り下ろされた斧剣を弾き飛ばす。
「な……っ!?」
突如ダンテの体から雷電の形となって噴き出した凄まじい魔力に、イリヤは驚愕した。
ダンテの体を蒼い雷電がほとばしっていた。攻撃的に放出されるソレは、もはや人間には到達し得ない圧倒的な魔力だった。
退く事を知らぬ狂戦士が、その魔力に間合いを取る。失われた理性の奥に眠る戦士としての本能が、彼に警戒する事を訴えたのだ。
「うそ……」
イリヤが魔力に押されるように、一歩後退する。最強のサーヴァントを使役する彼女も人間である事に変わりはない。その人間の本能が恐怖を訴えたのだ。
長い歴史に渡って、人間の根底に刷り込まれた恐怖。
暗く濁った、<闇の存在>に対する恐怖を。
「悪魔……」
バーサーカーに向けて、ダンテは変わらず不敵な笑みを浮かべていた。
しかし、その笑みは何処か凄惨なモノに感じた。魔力が雷となってほとばしる度に、ダンテの存在を覆うように現れる輪郭。
黒鉄の鎧のような体躯に、歪んだ角。そして背中から生えた歪な翼。
イリヤにはその魔力の形がはっきりと見えた。幻覚ではない。
まるでテレビのノイズのように、ダンテの姿と悪魔の姿が不安定に入れ替わって見える。
「はっはぁ、ビックリするのはこれからだぜ!」
魔人化したダンテは、腰のホルダーから銃を抜き放った。白と黒は彼の手の中で華麗に回転し、ピタリと銃口をバーサーカーの顔面に捉える。
「バーサーカー!」
我に返ったイリヤが、恐怖を掻き消すように叫んだ。人間である部分が叫ぶ。アレは闇だ。飲まれる前に消滅させなければ!
最強の下僕がそれに応えた。
『■■■■■ーーーッ!!』
咆哮を放って巨人が地を駆ける。
向けられた二つの銃口は小さく、そこから吐き出される弾丸は彼の巨躯に傷一つ付けられはしないだろう。
「ジャックポット!」
次の瞬間、ダンテの両手が雷撃を放った。
それは比喩ではなく、正しく雷鳴が響き渡る。銃口から怒涛の如く吐き出された無数の鋼の塊は、全てが雷の魔力を濃密に纏った強力無比の一撃だった。
雷の弾丸が嵐のようにバーサーカーの顔面を捉える。凄まじい魔力の衝撃と爆発が濁流の如くバーサーカーの、文字通り鉄面皮に押し寄せた。
その場に人智を超えた射撃と威力に、釘付けにされたバーサーカーは、しかしそのまま倒れる事はなかった。
(攻撃が届いてねえ……!)
引き金を引き続けながらダンテが眼を見開く。雷撃は全て、バーサーカーの顔面の皮一枚に弾かれていた。耐えるのではなく、弾かれているのだ。
(対魔力か!? それにしても異常だ、一定ランク以下の魔力攻撃は無効化か!)
しかしその反則ともいえる防御力に、絶望を感じたのは一瞬だった。ダンテはすぐさま、照準を更に絞ってバーサーカーの両目に集中させる。
恐るべき集弾率を発揮して、雷の銃弾はバーサーカーの眼の殺到した。
一点に集中された魔力弾は着弾地点で結果的にその効果を上げる。嵐のような射撃によって、バーサーカーの防御力がついに突破された。
雷撃がバーサーカーの眼球を貫いて蒸発させる。
『■■■■■ーーーッ!!』
戦士は痛みを精神で凌駕する。故にその雄たけびは苦痛による悲鳴ではない。視力を失った狂戦士は、嵐となって前方の敵がいるであろう範囲を攻撃し始めた。
出鱈目に斧剣が振り回される。圧倒的に剣圧と剣速を誇るソレは、まるで巨大なミキサーだ。下手に突っ込めば、ダンテと言えどもミンチにされる。
よって、ダンテは銃を納めると、全力で駆け出した。
―――後ろに。
「へ?」
荒れ狂うバーサーカーの後ろで、イリヤが思わず間の抜けた声を漏らす。
彼女が本能的に恐怖を抱いた、得体の知れない悪魔は、その魔人化した強大な身体能力をフルに生かして―――逃げた。
尻に帆をかけて。
ケツまくって。
全速力で逃げた。
「じゃあな、お嬢さん! 戦争が始まったらまた会おうぜ!」
肩越しに笑って、ダンテは軽く手を振った。
剣に蓄えられた残りの魔力を全て脚力に回して、ダンテは疾走した。
雷の魔霊による魔人化の特性として機動力の向上がある。これはアラストル自身の能力だったのだろう。
その魔人の力を借りたダンテの走りはまさに迅雷のごとき速さだった。
「……な」
呆然としている間に、ダンテの背ははどんどん小さくなっていった。傍らには、すでに戦闘領域から離脱した敵の姿を静かに見送るバーサーカーの姿があった。彼の本能が驚異は去ったと確信したのだろう。
一人、敵にも状況にも置いてきぼりに去れた小さな少女はふるふると肩を震わせていた。
「なによ、それぇぇーーーっ!!?」
闘争の空気の去った夜の森に、少女の怒りに任せた叫びが響き渡った。
「それで森の外まで走り抜けたってワケかよ。なっさけねえなぁ、オイ」
「うるせえな、俺の仕事は偵察だったんだぜ? 生きて帰る必要があるだろうが」
アインツベルンの森を抜け、更にそこからバイクを走らせてホテルに直行するという見事な逃げっぷりを発揮したダンテは、わずかに早くホテルに戻っていたランサー達と部屋で合流した。
二人してテーブルを囲み、缶ビールで仕事の後の一服をする。ダンテがビールの値段の高さにまたも眉を潜め、ランサーが缶を開けるのに悪戦苦闘する以外はおおむね平和な一時だった。
「お前の方はどうだったんだ? かなり派手にやったみたいだが」
ダンテが壁に掛けられたバゼットのコートをちらりと見ながら尋ねる。コートは右腕の裾が燃え落ちたように、破れて焦げていた。裾も所々痛んでいる。更に、ベッドに脱ぎ捨てられたシャツには血が滲んでいた。
「ああ、寺への石段の前でキャスターとそのマスターに会った。んで、戦闘」
「今、バゼットは何処だ?」
「風呂場だ。怪我はそれ程酷くねえ、手当ても自分でちゃんとやってる」
「そうか、ちょっと様子を見てくる」
「て・め・え・は・こ・こ・に・い・ろ」
シャワーの音がするバスルームに向かおうとするダンテをランサーが渾身の力で押さえつけた。表情は真面目だが眼が笑っている。
「なんだ、オイ。随分と紳士的じゃないか?」
にやにや笑うダンテの軽口を、ランサーは黙殺した。ぐびりっと誤魔化すように酒を口に含む。
ランサーは話を戻す事にした。
「それでキャスターなんだがな、なかなか強え。短い詠唱で、とんでもない威力の魔力弾を連射しやがる。正面勝負なら楽勝だと思ったんだが、思うように攻められなかったぜ」
「そりゃすごいな」
ダンテは裏を含まずに、素直に賞賛した。
ランサーはサーヴァントの中でも最速のクラスだ。その英霊が最弱と言われるキャスターをしとめ切れなかったという事は、それだけ呼び出されたキャスターの英霊が強力だったのだろう。
ダンテは魔術師でも英霊でもない。聖杯戦争において初心者だ。ゆえに、クラスに縛られず純粋にその能力を評価することが出来た。
「相手がベストの状態だったら、こっちもやばかったな」
「ベストじゃなかったのか?」
「マスターがカスだ」
面白くなさそうにランサーが吐き捨てる。
「魔術師としては三流だな。俺がキャスターで、バゼットがマスターを攻撃してたんだが、あの野郎やたら喚くだけで何もしねえ。キャスターが終始フォローに回ってた。そのせいでバゼットがキャスターに攻撃を少し食らってな、俺もフォローに回った。結果的にジリ貧の状態になっちまったのさ」
戦闘開始と同時に、二人は敵を分断する事に成功した。ランサーがキャスターを攻め、バゼットがマスターの男を追い詰める。しかし、ここで男が予想以上に役立たずだった事と、キャスターに空間転移という大技があった事が災いし、助けを呼ぶマスターの元に瞬時駆けつけたキャスターの攻撃をバゼットが受けてしまったのだ。
「結局、キャスターの空間転移であっさりと逃げやがった。
まあ、マスターのお守りで防御の手薄なキャスターにかなりダメージは負わせたし、バゼットもマスターの方に手傷を負わせたみたいだからな。あの腰抜けならすぐにリタイアするんじゃねえか?」
キャスターもハズレを引いたな、と同情するように呟いてランサーはビールを飲み干した。その横顔は、全力で戦えなかった不満がありありと浮かんでいる。
「で、お前の方は? バーサーカーの強さはどうだった?」
陰鬱な思考を素早く切り替えて、ランサーがダンテに気安く尋ねた。すでに旧知のような仲の二人だ。
「サーヴァントもマスターも一流だった。バーサーカーのクラスは自滅する事が多いらしいが、アレは完璧に制御してたな。魔力も桁違いだった」
少女が普通の人間とは違う感じがしていた、という事は何故か口にしなかった。
ダンテにも分からない違和感を持つ少女だ。うかつに話せないと判断していた。
「バーサーカーの戦闘力は桁違い。ある程度の攻撃は無効化。それに、たぶんアレはまだ<狂化>してないな」
おまけにまだ何か裏技を隠しているだろう。ダンテの戦士としての勘がぼんやりとそんな嫌な予感を感じていた。
「こっちとは正反対か……遭ってみないとわからねえが、とんでもねえ化物を持ってきやがったな」
「俺はもうゴメンだぜ、あんなのとやり合うのは」
二人ともだらけた様子で椅子の背もたれに寄りかかる。その姿はどう見ても、飲み屋でだべる友人同士のようだ。
バスルームの扉が開く音共に、そんな怠惰な空気は吹き飛んだ。
「おう、バゼ……」
「……ワオ」
ランサーが言葉の途中で絶句し、視線を走らせたダンテがにやけた笑みで口笛を吹く。
バスルームから出てきたバゼットは下着姿だった。所々にある古傷や、つい先ほどの戦闘で負った傷の治療跡が痛々しいが、白い肌にプロポーションは完璧。風呂上りの魅力的な美女だ。
「すまん、着替えを持っていくのを忘れ……」
「〜〜〜〜っ、あのなぁ」
絶句していたランサーは疲れたようにため息を吐いた。視線をバゼットの裸体から逸らせながら立ち上がり、にやにや笑うダンテの腕を掴んで入り口に向かう。
「外で待ってるから、終わったら呼べや……」
「ん? ああ、私の事は気にするな。これでもぬるくない人生は送ってきた、私も別段気にしない」
「気にしないとよ?」
「うるせえ。いいからさっさと着替えろよ」
意地の悪い笑みを向けるダンテを睨んで、ランサーは疲れた足取りで部屋を出て行った。伝説の英雄は思いのほか紳士的だった。
ランサーの疲れたような背中と、引き摺られながら笑って手を振るダンテが扉の向こうに消えると、バゼットは思わず苦笑した。
女性らしい扱いを受けた事など久しぶりだ。悪い気はしない。別に好んで男装などをしているわけではないのだから、ただそうする必要がある環境だっただけだ。
自然と緩んでしまう顔を引き締めながら、バゼットは素早く代えの服に着替えた。
不意に、部屋の電話が鳴る。
ホテルのロビーに繋がれたそれは、外部からの電話を繋ぐ為のものだった。
切り替えられた受話器の向こう、バゼットは久しく聞いていなかった知人の声を聞いた。
「コトミネ……」
聖杯戦争の監督者、言峰綺礼。バゼットにとって、旧知の友―――。
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