ACT26「力への意志」








 悪魔の父と人間の母を持つ兄弟がいた。
 一人は凍える魔から力を求め、一人は暖かな人から心を求めた―――。







 闇を裂き、地面を滑るように走って迫る蒼い影。それがダンテには見えない高波に思えた。
 身を守ろうと慌てて剣を構えるのが滑稽に思える程、「力」「技」「機」のあらゆる万全を備えてバージルの斬撃が抜き放たれる。日本剣術特有の<居合い>に酷似したその一撃は、しかし人の常識を超えて昇華された魔の一撃だった。
 標的が完全に間合いに入る前に刀が抜かれ、一直線に疾走を続けながら繰り返し剣閃が閃いた。
 居合いとは本来鞘走りにより初撃の太刀筋を一気に加速させる一撃必殺の技なのだが、バージルの居合いは加速を維持したまま返す刀にもその速さを加え、連続して放つ人智を超えた技だった。
 自らの突き進む道を空間ごと斬り刻みながらバージルが駆け抜ける。無数の太刀筋は、すれ違う瞬間ダンテにも襲い掛かった。
 竜巻が通り抜けるような鋭い風圧と衝撃が、ダンテの体を貫く。腕も足も所構わず無作為に斬られ、かろうじて前に差し出したフォースエッジの刃が体の中心に届く斬撃を受け止めてくれた事だけが幸いだった。
 文字通り、刃の竜巻だ。
「くそぉ……っ!!」
 飛び散る鮮血に悪態を吐きながら、振り返り様剣を横薙ぎに薙ぎ払う。ほぼ同じタイミングで振り返ったバージルが、やはり同じく横に薙ぎ払った刀とぶつかって火花を散らした。キィンッ、という金属の噛み合う澄んだ音が夜の闇に響く。
 一呼吸。二人の時間が停止したのは、たったそれだけ。
 力は入れず、刃を合わせたまま両者が半歩踏み出した。さらにもう半歩。
 自分の目の前で自分を同じ顔をした男が、同じ瞳に同じような殺意と敵意を宿して睨み据える。その奇怪な光景に嫌悪と怒りを抱きながら、二人の悪魔は一分の隙もなく、じりじりと近付いていく。全身を緊張させ、それでいて、くつろいだ動きで。
 最初の間合いに入った瞬間、二本の刃が離れ、すぐさま死の弧を描いた。
 閃光が走り、ダンテの左肩が切り裂かれた。浅い。単純なリーチの差だ。バージルは一切表情を変えず、腰を僅かに沈める。掠ったくらいで喜ぶような、甘い殺意は抱いていない。
 ダンテは痛みを感じたが、それを表には欠片も出さなかった。瞬きさえもしない。お互い、相手に休む間を与えるつもりはなかった。
「死ね」
「嫌だね」
 形だけの軽口が交わされる。その声に秘められた意思は鋼のように固まっていた。目の前の存在を■してやる―――。
 ダンテは地を這うように低く踏み込んで、フォースエッジを横薙ぎにする。バージルは右足を引き、ぎりぎりでその一閃をかわしながら、無防備な背中に向けて袈裟斬りに閻魔刀(ヤマト)を振り下ろした。振り抜いた剣を担ぐように構えて、ダンテはそれを防ぐ。
 体を起こす反動を利用して刀を弾くと、ダンテは剣先を鋭く突き出したが―――横合いから殴りつけるように刀で叩き、バージルは太刀筋を逸らした。弾かれた反動をまたも利用し、軸足を中心に一回転して車輪のような斬撃を繰り出す。が、やはりバージルはかわす。
 反撃の刃に剣を叩きつけ、受け流し、フェイントを見切り、鋭い突きが出て、敵が避け、動き、そして再び二本の剣が激突する。
 静かに、厳かに、そして何より速く―――攻防はみるみる加速していった。
 一呼吸ごとに閃く剣閃の数が増えていく。相手が一度斬る間に二度斬ろうと。二度斬る間に三度。まるで競い合うように、残像の浮かぶ素早さで狡猾な斬撃が繰り出される。視界の内で無数に炸裂する、鉄と鉄がぶつかり合う轟音、飛び散る火花―――。
 その騒がしく走り回る太刀筋の隙間を縫うようにして、二人は互いの視線を相手に向けたまま一瞬たりとも目を離しはしない。
「どうした……?」
 剣戟の音に紛れてバージルは無表情のまま呟いた。
「ワンテンポ遅れているぞ?」
「―――っ!!」
 ダンテの両目が見開かれた。極限を超えた集中力が、剣戟の隙間を巧妙に掻い潜って滑り込んだ一撃を捉える。それを迎撃しようと剣を翻した瞬間、しかし既に横腹を深く抉り斬られていた。
 馬鹿な、と自らの感じた手応えを錯覚と理解して声を漏らす。バージルの言うとおり、自分の腕は意思に反して僅かに反応が遅れていた。
「神経だけが鋭敏になり、体の動きが付いて来ていない……」
 額に向けて振り下ろされる刀を、必至の思いで受け止める。だが掲げた剣を戻す動作より早く、返す刀で肩を斬られた。
「がら空きだ」
 揶揄するような声。なすすべもなく両足の太股を切り裂かれる。
「もう一度言うぞ」
 渾身の力を込めた反撃は容易く受け流される。まるで柳を相手にしているような手応えの無さを感じ、次の瞬間には現実を直視させるように胸を熱い痛みが一直線に駆け抜けた。
「―――死ね」
 バージルの左手が、剣を握るダンテの手首をがっちりと掴んだ。一変して力任せに、バージルはその腕を引き寄せ、脇腹に膝蹴りを叩き込む。
「がっ!?」
 ダンテの体が宙に浮いた。その一瞬の隙で、バージルは彼の胸元に光るアミュレットへと素早く手を伸ばす。
 しかし、その手が目標を掴む寸前で、最後の力を振り絞ったダンテの手が打ち払った。伸ばした手は空を掴み、代わりに無言で蹴りを叩き付ける。ダンテが吹っ飛んで民家の塀に激突した。
 コンクリートの壁が衝撃に震え、ダンテだけが聴く背骨が軋む音を最後に、周囲は再び静寂を取り戻した。
「……っは! 手グセの、悪い野郎だぜ……っ」 
 肺に詰まった空気を吐き出し、息も絶え絶えにダンテが悪態を吐く。
 傷ついて棒のような足を叱咤しながら立ち上がる彼を、バージルは冷たく見下ろしていた。その視線は、ダンテの胸元で揺れる―――自分の首に掛かった物と同じアミュレットだけを捉えている。
「……そのアミュレットと剣をよこせ」
 静かな迫力を秘めた催促を、ダンテは笑い飛ばした。
「嫌だね、自分のがあるだろ?」
 玩具を取られまいとする子供のような仕草で茶化した答えを返す。
「その剣の本当の使い方を、お前は分かっていない」
「知ってるさ。アンタが『死んでる間』にいろいろあったんだ」
「ならば、俺の言葉の意味も分かるはずだ」
「ああ。だが分かりたくないね!
 アンタは変わってない。アンタだけが<あの時>から止まったままだ。そうやって力だけを求め続けて、自我を奪われ、死んだ後でも変わりゃしない! その上まだ犬みたいに同じ場所をぐるぐる回って繰り返そうってのか!?」
 その叫びは、慟哭のように悲壮な響きを持っていた。激するダンテに対して、視線の先に立つ既に死んだ筈の存在である<兄>は、別れた時と全く変わらぬ姿と意志を持って佇んでいる。その瞳に映る決意は彼の叫びにも揺るがない。
 ―――何故今更になって<アサシン>がその姿を取り戻したのか。疑問には思ったが、それを打ち消してすぐに怒りを覚えた。
 本当に、かつて対峙した時と何も変わらない自らの片割れの愚かさを理解して。
 そして、それは相手も同じだった。
「相も変わらず、俺とお前の意志は食い違うようだな……」
「ああ、まったく嫌になるね。数年越しの、兄弟の再会だってのに、やってる事も言ってる事も数年前と同じだってんだからな」
 為るべくして為ったという訳か―――。
 互いに声も無く、運命の皮肉に苦笑する。低く声を上げて笑い合う二人の様子は、兄弟らしく共感し合っているように見えるのに、この先に待つものは拒絶と戦いしかないと既に決まってしまっているのだ。
「アンタが何故また俺の前に現れたのか、その理由に興味は無い。
 俺はアンタを認めない。アンタが気に入らない―――それだけさ。それだけは、確かだ」
 気だるげな仕草で、しかし視線だけは何よりも鋭敏に尖らせてダンテは剣先を突きつけた。
「結構だ。俺もお前を否定する」
 その威圧を真正面から受け止ると、バージルは静かに刀を鞘に納めた。鍔鳴りの乾いた音が響き、ゆっくりと持ち上げた無手の両腕に蒼白い炎が発生する。
 人の世に在り得ぬ異形の炎は、手の甲から肘までを覆う篭手を形作り、固着した。バージルと契約したイフリートの篭手だ。だが、その支配権はダンテとは違い完全にバージルが握っているようだった。彼の魔力の色を表すようなこの世に在らざる蒼い炎を立ち上らせる篭手は、彼の凶暴な意思に魂を塗り潰されている。
「俺が迷い出た理由が在るとするなら、その一つはお前の抹消に他ならないからな―――」
 互いの存在をこの世界から排除する為、両者は行動を開始した。









 私室の椅子に腰掛けた言峰は、片目を瞑ったまま静かに虚空を見上げていた。
 一見して呆けているように見えるのに、しかしその視線は手元の書物を読んでいる時と同じように小刻みに動き、視界にある情報を読み取っている。それが文字の刻まれた古紙であるか、空間であるかの違いだけで、口元には読み解いた目の前の情報を愉しむ笑みすら浮かんでいた。
「……ふむ、実に興味深い」
「ただの兄弟喧嘩じゃないか、珍しくもない。まったくあいつら何年も何年も飽きない馬鹿どもだよ! ハハハッ」
 静粛な空気ごと部屋の扉を跳ね開け、甲高い哄笑が中に侵入してきた。間桐慎二だ。言峰には少なくともそう見えた。姿形、記憶と寸分の違いなく。
 だが、違う。
 アレはもう間桐慎二ではない。
 言葉で説明できない根拠を持ってそう確信すると、その納得を言峰は一つ小さく頷くだけで表した。淡白な反応を見て、慎二の形をした何かはニヤリと厭らしい笑みを浮かべた。
「彼らの戦いは<お前>の差し金か?」
「お膳立てはしたけどねえ……結局は必然さ。
 同族嫌悪なんてもんじゃない。一人になるはずだった二人―――。彼らは何もかも二人で一つを分け合った。些細な歯車の狂いで決定的に変わってしまう。完全な同調か、完全な拒絶か。結果が、貴重なスパーダの血筋同士の殺し合いだ。アハハハハッ、笑っちゃうよ!」
 彼は両脇に二人の女を連れ立ち、露出の高い派手な服でむき出しになった肩をいやらしく手で撫でている。まだ若い、学生くらいの年頃の少女達は、その手つきに嫌がる素振りも見せず恍惚とした表情を浮かべていた。二人の瞳は濁り、宿っているはずの意思の光は淀んでいる。
 それらが生きた人形に過ぎない事を理解すると、それきり言峰は視線を外して再び虚空の情報を見つめる作業に戻った。
 その様子を見て、慎二は肩を竦める。
「覗き見は感心しないよ、特にその力を使うのはさ。アンタの<契約>した相手を普通の悪魔と思わない方がいい。体に毒なんてもんじゃない、文字通り地獄の痛みさ。顔色一つ変えないなんて、やっぱりアンタ変態だよ」
「食い潰されると言うのかね? ―――君のように」
 言峰の返答に、今度こそ慎二は心の底からの笑みを浮かべた。濁った血のように変色した瞳と、剥き出しの歯の隙間から漏れ出す悪臭を伴う笑みは、正しく悪魔のそれに等しかった。
「―――好きで食い潰したんじゃねえ、俺だってこんな皮被りの早漏短小野郎の体なんて使いたかねえや。ムキムキのハンサムマッチョなんて贅沢言わねえから、もうちょっとマシな依り代が欲しかったぜ! ギャハッ!」
 間桐慎二の声が変わった。文字通り声色も調子も。
 口を開いて動かしている人間は間桐慎二の姿をしているというのに、出ている声も言葉も全く別人が発しているように錯覚する。
 それは錯覚ではなく、そしてその声は言峰にとってよく聞き馴染んだものだった。
 女から手を離すと、慎二の姿をした何者かは言峰と対面する位置の椅子に歩み寄った。一歩一歩、歩く動きの最中で、まるで粘土細工を見るようにその姿が歪み、変貌していく。
 背と手足は縮み、腹が風船のように膨れ上がって、服さえ変質して、短くなった歩幅で椅子に辿り着いた時には<彼>は本当に全くの別人へと変化していた。
「道化芝居、と言うべきかな……」
 常軌を逸した奇妙な<変形>を興味深そうに見つめていた言峰は、目の前でニヤニヤと笑うピエロのような男に冗談交じりに呟く。
 ゴーマーパイルはそれを鼻で笑った。
「つまらねえ、アンタにギャグの才能はねえな。反吐が出る。クソも出るど! 家に帰っても、またあのお爺ちゃんと顔合わせなきゃなんねえ! デカパイの妹は他所に持ってかれちまったしよ、全くいい事無しだぜ!
 唯一の特典といやぁ、電話一本で女子高生とヤリまくれるって事ぐらいか。こういう事はマメだったんだねえ、褒めてやるよプレイボーイ。ヒヒヒッ、おかげで魔力補充し放題」
「なるほど、後ろの娘達は」
「ああ、オイラの可愛いダッチワイフちゃん。聖書風に言うなら、雄山羊(サタン)と交わった生贄の淫女どもだ。ケツの穴まで舐めてくれる従順な奴隷さ、頑張りすぎて六人ほど腹上死させちまったけどな。ゲェヘヘヘ!」
 下品な笑い声と口調だったが、言葉の内容は真実味を帯び、そして凄惨なものだった。一日で六人の女学生がそれぞれ別々のホテルで謎の変死を遂げた事は夕方のニュースで流れている。
 不可解な死を遂げた人間はそれだけではなかった。ここ数日の間に徐々に増えている。公園で猟奇的に殺害された男女、あるホテルに響いた銃声とボーイの変死、学校を襲った集団昏睡事件など。その他にも新聞の文面に散らばる数々の怪異。それらは犯人も原因も判明していない不可解な事件として、お昼のワイドショーを賑わせ、警察関係者を苦しめている。見えない現象は、街に住むごく一部の好奇心を満たし、残りを不安と恐怖で徐々に侵蝕していた。
 今、冬木市は得体の知れない何かに怯えている。
 その中心となるのが、間違いなく今この場だった。
「―――充分なのかね?」
「主語を付けな。なんだってぇ?」
 言峰は厳かに言い直した。
「お前の言う<狂乱と混沌> 悪魔をこの世に引き寄せる呼び水は、人間の負の感情なのだろう? 私はてっきり、大量殺人でも起こるのかと思っていたが」
 パイルは心外だと鼻を鳴らした。口は笑みの形を保ったままで。
「おいおい、罰当たりだな。てめえが口にするんじゃねえよ神父さま。神はいつでも見てるぜ、盗聴器と隠しカメラでな。ギャハハハッ!
 ―――魔術師どもの間での悪魔の位置づけってのは<実像幻想>って言うらしいな。モノの想念が集まってカタチをなしたって尤もらしい事説明付けてるが、あながち間違いじゃねえ。俺たち悪魔がこの世界に存在出来るのはアンタら人間の<信仰>あってのもんだ。
 人間って奴は神様や天使様と同じくらい悪魔に対しても夢想してくれた。人間が恐れなきゃ闇は力を持てない。分かるか、アンタらは俺達にとってお得意様なんだぜ? 持ちつ持たれつ、殺すなんてとんでもねえや。ヒヒッ」
 水面を乱すのに地震を起こす必要はない。小石を幾つか投げ入れてやればいい。起こった波紋は広がり、いつしか消えてしまうが、それが人の恐怖ならば話は別だった。不安は増殖し、恐怖は伝播する。負の感情は悪魔を呼び、悪魔は人の心の闇を揺さぶるのだ。この呪われた無限連鎖こそが、数千年もの間、人界に悪魔を蔓延らせている根源だった。人が光の中に佇む時、その背後に影が出来るように。
 パイルの語る事は真理だ。人間と悪魔は切っても切り離せない存在だった。それを理解し、聖職者である言峰綺礼は世界の皮肉を冷たく笑った。
「魔術師ってのは理屈で理解できないもんを認めたがらねえからな。悪魔を否定しながらも、それに理論や原理を付けたがる。
 人間の願いによって生み出され、願いによって呼び出される受動的な存在―――その通りだ。『悪魔の囁き』なんて都合のいい事言うんじゃねえ、俺達はお前ら人間が望んだからこそ現れる。需要と供給の、実に現実的な関係さ……」
 流暢に目の前の悪魔は語った。
 道化師が語るのは当然の事だ。言峰はいつの間にか虚空から目を離し、ピエロの格好をした不細工な悪魔の言葉に耳を傾けていた。
 彼は人として『外れた』領域にいる人間だが、それでも<人間>という枠組みから逸脱しているワケではない。同じ部屋、同じ空間に相対する二人の間には国よりも種族よりも絶対的に隔絶する壁がある。その対岸にいる存在に対して興味が湧かない筈が無い。
 彼らは何を見ているのか。
 彼らは何を聴いているのか。
 それは幸福を理解できない男にとって、酷く惹かれる事柄だった。
「―――<悪魔>とは何か?」
 神に仕える男は問う。
「私はその存在を知り得る稀有な人間となったが、時折底の無い穴を見ているような気になる。
 彼らは魔法のように現れる。あたかも塵からでも生まれるかのように。場所も自由、時間も自由、形さえ決まっていない。
 彼らの存在は我々人間にとって奇跡のように見える。ならば、悪魔と天使を区分するものは何だ? 人は自身の感覚に納まりきらぬものを、そうした枠組みにはめて把握しようとしているに過ぎないのではないか」
 それは自分の信仰する神に対する問いかけのように響いたが、実際に聞いている相手は目の前の悪魔一人だけだった。
「私は無限を見ているような気さえする―――」
「……お前だけじゃねえ、歳を経た悪魔は皆考える事さ。
 何故世界は二つに分かれている? 何故俺達は存在する? 俺達は本当に『生きている』のか? 永遠の命題って奴さ、ヒヒヒ……」
 意外な事に、応えるはずのない返答がピエロの口から発せられた。嘲笑交じりの言葉だったが、そこには今まで聞いた事の無い理性的な色が含まれている。おおよそ道化師らしからぬ口調だった。
 言峰はそこに人間のような苦悩を見て、小さく苦笑した。
「今回は随分と語るな。意味のある会話を続けるなど、お前らしくもない」
 パイルは忌々しそうに笑いながら、自分の体を―――正確には受肉した体を―――睨み付けた。
「ああ、どうやらこの坊やの魔術師としてのサガらしいぜ。考え方が固くていけねえ。
 依り代にする体によって知能レベルや思考パターンが左右されるのは難儀な話だ。まあ、ピエロの悲しい運命って奴か。ニーチェも言ってるだろうが『精神は肉体の玩具』ってな! ギャハハハ! 脇役は辛いぜ」
 パイルの語る内容が、契約者を食い潰した悪魔として一般的な事なのか、知識の無い言峰には判別のつかない事だったが、ただ目の前のピエロが普通の悪魔と比較してもかなり異なった存在であるという事は、薄々理解していた。
 それまでの真面目な話を嫌がるように顔を振ると、パイルは話題を改めるように声を張り上げた。
「そんな事より目下の問題はスパーダ兄弟の殺し合いの結果だ。相討ちなら最高、どっちが生き残っても構わねえが、二人が力合わせて仲直りなんてオチが一番最悪だ! まあ、ありえねえけどな!」
「戦いはまだ続いている。だが、アサシンの変貌はどういう事だ?」
「ゾウケンお爺ちゃんの知恵袋。俺達のボスに身の程知らずのバージルが喧嘩を売って返り討ちに合った時、ボスは自我を封じて魔の力を強めさせた。だから悪魔の助言をくれてやったのさ、追い詰められたら令呪を使ってアサシンの自我を取り戻せってな」
「スパーダの血筋を目覚めさせるのは危険ではないのか?」
「確かにどっちも危険だがな、あの二人が絶対に相容れねえのは分かりきった事だ。潰し合うのは必然さ。あの甘ちゃんデビルボーイを追い詰めるには、身内に剣を向けさせるが一番効果的だぜ。ギャハハハ、傑作だな! 実の息子が殺し合いってんだから、ダディも地獄で泣いてら!」
 声を上げて、悪魔は笑った。それは本当に、今は亡き裏切りの魔剣士を嘲笑う痛快な色を滲ませており、悪魔達が彼の魔剣士を真に怨み、恐れ続けている歴史を裏付けていた。
 哄笑を上げ続けるピエロから視線を離すと、言峰は再び虚空を見つめる作業に戻った。
 人の世に留まった者と、地獄から舞い戻って来た者。二人の剣士。皮肉と宿命の下に産み落とされた、二つの世界の狭間で迷える混血の人魔たちの戦いの結末を見届ける為に。









 何度目かの金属同士がぶつかり合う音と火花が弾ける。赤い影が逃げるようにして後退した。
「クソッ!!」
 悪態が吐かれた。ダンテの口から。
 荒い呼吸で肩を上下させながらダンテは距離を測るようにバージルの周囲を歩く。それは余裕や落ち着きから来るものではない、もう走り回るだけの余分な体力を消耗できないのだ。反して円を描くように歩く中心でバージルは足を止めた構えのまま、静かに待ち構えていた。
 長引けば長引くだけ、ダンテが不利になる事はあまりに明白だ。もう彼には動き続けるだけの燃料が残っていない。予備タンクに残された力を騙し騙し使っていくしかない。
「どうした、ダンテ? 来ないのならこちらから行くぞ」
「……っ! クソったれ!!」
 しかし、ダンテの疲労などバージルの都合ではない。彼は先手を取る事も後手に回る事も自在なのだ。
 攻めるしかない。ダンテは悲壮な覚悟で駆け出した。下手に構えた剣先が地面をガリガリと削り、火花を残す。
 走る勢いを乗せて剣を振り上げる。だがそれは剣の腹を殴りつけられる事で、あっさりと太刀筋を逸らされた。舌打ち一つ、返す刀が再びバージルの首を狙う。それもまた下から突き上げる打撃によって角度を強制的に曲げられた。
 受け止めるのではなく、叩いて逸らす。ダンテがしたように刀剣の持つ弱点を突いた的確な迎撃方法だ。
 ダンテは諦める事のなく斬撃を繰り出したが、流れるように動き回るバージルの両腕に全て弾かれていた。回避する仕草など欠片も見せない。全ての太刀筋があらかじめ曲がったレールを通るように逸れ、ただ彼の周囲の空気を斬り裂くだけに留まった。
(ラチがあかねえ……っ!)
 焦りがダンテの闘志を塗り潰していく。
 小手先の攻撃は無駄だと悟った彼は、必殺の一撃を放つ事を決意した。弾かれた剣の勢いを殺さぬまま、両手で柄を握り、大きく振り被る。がら空きになる胴体に気をやる余裕もなく、刀身に全ての意識を集中させた。まさに捨て身の一撃だ。
「ォオオォオオオッ!!」
 気合いと共に振り下ろされる、一直線の唐竹割り。ただ剣を『振り下ろす』だけの単純な動作の分、込める力も気迫も桁違いに大きい。
 今繰り出せる技の内で最大級の攻撃を、ダンテは放った。その閃光を、バージルは冷たい視線で見据え―――。
「な……っ!?」
 今度は金属音すら無かった。
 ダンテの渾身を込めた一撃は、バージルの手の中に収まっていた。刀身を五本の指で抑え込まれ、完全に勢いと力を失った状態で。
 早い話、彼はただ掴んだのだ。ダンテの斬撃を。片腕で。
「まるで弱々しい女のような剣だ、ダンテ」
「馬鹿な……」
 絶句するダンテの眼前で、バージルが弓のように体をしならせ、空いた手を引き絞る。
「フンッ!」
 そのまま地獄の業火を纏った貫き手をがら空きの胴体に叩き込んだ。
 単純な拳打とは違う、体内に威力を送り込む巧みな掌打を受け、ダンテは自分の内臓が焼け爛れるような激痛を味わった。味わいながら次の瞬間吹き飛ばされて壁に激突していた。コンクリートブロックの塀が衝撃に耐え切れず崩壊する。
「がは……っ!」
 打撃を受けた一点が魔の炎で焼かれ、ブスブスと黒い煙を上げている。自身の肉が焼ける不快な臭いが鼻を突き、吐いた血は沸騰したかのように熱かった。
 繰り返すが、常人ならば死んでいる。そういう狂った戦いに彼は身を置いているのだ。
 だがダンテの闘志はその瞬間にも萎えなかった。状況は絶望的だが彼は足掻く事に何の躊躇いもなかった。窮地によって呼び覚まされる魔の血が、彼の闘争心を飽く事無く煽り続ける。
 持ち上げた視界に追撃を掛けんと迫るバージルの姿を捉えると、ダンテは背を崩れかけた壁に預けながら立ち上がり、素早くコートの下の銃を引き抜いた。姿を現す黒い二本の銃身、人体を挽肉に変える事も出来るショットガンを躊躇無く標的に突きつける。
 バージルが両手をクロスさせて顔面を覆うのと、引き金を引くのとはほとんど同時だった。
 マズルフラッシュの閃光が闇を切り裂き、発射された散弾の雨にバージルは頭から飛び込むような体勢で突き進んだ。
 弾丸が目標に到達する時間は本当に一瞬だが、結果それらは全て両腕の篭手に弾かれてしまった。カバーされていない体の何処にも当たる事無く、両腕を中心にして全身を覆うように吹き上げる蒼白い炎の、常軌を逸した温度によって弾は全て溶けて蒸発した。
 鉛の弾丸が魔法のように消滅する。文字通り悪魔の為せる業だった。
 全くの無傷でダンテの眼前まで辿り着いたバージルは、突き出されたままの腕を振り払い、ショットガンを上空に弾き飛ばした。炎に巻かれた腕を慌てて引っ込めるダンテの視線が空中でクルクルと回る銃身を追う。
 落下するそれは最悪の位置に収まった。眼前に佇む、バージルの手の中に。
「憐れだな、ダンテ……」
 銃口が下腹に突きつけられる。背後は壁、目の前には敵。逃げ場など無い。
 ダンテが息を呑むより、早く。
「―――そして愚かだ」
 二人の間で強烈な火花と、轟雷のごとき銃声が炸裂した。
「ぐがぁああっ!!」
 焼け火箸を突っ込まれたような痛みと衝撃に、思考が破裂して白濁する。一発、二発、と無慈悲に引き金が引かれ続け、ショックで痛みが消える事も無く神経を走り抜ける。ダンテの悲鳴を掻き消すように銃声は何度も響き渡った。
 タフさには比類なき自信を誇るダンテだったが、これはもう耐えられるレベルを超えていた。胃袋に穴を空け、腸を破る衝撃が脊椎に到達して胴体を両断しなかったのは、ショットガンに使用されている弾丸が一般で普及する平均的な威力の弾種だったおかげだ。もしもスラッグ弾だったら、彼の体は真っ二つになっていただろう。もちろん、それが『威力が低い』という意味に繋がるワケではない。
 ダンテはかろうじて耐え切っていた。負傷云々のレベルではなく、ただ人体の原型を留めているという状態で生き残っていた。
「お前が嫌悪する魔の血によって、今のお前は生かされている……」
 弾切れになり、加熱した銃口から硝煙を上げるショットガンを構えたまま崩れ落ちたダンテを見下ろし、バージルは言い聞かせるように呟いた。
「実に愚かだ」
 冷たく断言し、バージルは背を向けた。ゆっくりと歩み去る手の中で、ショットガンが篭手の放つ炎に飲まれてあっさりと溶解する。真っ赤に焼けて液状化した鉄がアスファルトに落ちて煙を上げた。
 霞む目でダンテはバージルの無防備な背中を見つめる。この隙を突く反撃の意思はあるが、それを実行するだけの力はもう残されていなかった。傷ついた肺で息をし、心臓を動かすだけで精一杯だ。
「何故、更なる力を求めない―――?」
 背は向けたまま肩越しに振り返り、バージルは問い詰める。答えをはぐらかす事を認めない、強い威圧感が滲んでいた。
「求めろ、それだけで手に入る。お前だけの力が」
「……おい、無茶言うなよ……。死にかけの、人間にさ…………っ」
「違うだろう、ダンテ? 気付いているはずだ」
 虫の息で言葉を返したダンテは、向けられる眼光に射竦められて硬直した。
「人間ならば限界だ―――だが、お前は<人間>ではない」
 彼の半身が放つ言葉は、彼が越える事を拒んだ<境界>を無慈悲に踏み越えた。
「異界の存在である悪魔は、この世で力を振るう為にこの世の依り代を必要とする。真の力を発揮できる『生きた』依り代を。
 理解している筈だ、ダンテ。お前の中の悪魔が目覚めた時から、この原理が持つ真の意味を……」
 バージルが振り返る。その全身からは、アサシンであった時に絶えず発していた悪魔の力と瘴気が目覚めた意思によって何倍にも濃縮され、立ち昇っていた。
 その強烈な気配が、ダンテの中の<闇>を呼び起こす。同じ血を持つもの同士、共鳴するように。
「―――悪魔でも人間でもない、中途半端な存在。ゆえに俺達はその条件を全て満たしている」
 ドクンッ、と。弱々しかった心臓の鼓動が強まった。まるで体の中から全身を震わせるような、力強い震動が重く響き渡る。
「―――ッッ!!」
 やめろ、とダンテは叫んだ。だがそれは声にならなかった。
「悪魔の血肉を備えた人間。矛盾する肉体を持つお前は他の悪魔の依り代としても有効だ。だからこそ魔具はその真価を限界以上に発揮し、一度失った悪魔の姿と力を憑依という形で再びこの世に現す事が出来る。
 ……だが、それは本当のお前が持つ力ではない。魔の血を自覚しながら、それを人間として否定するお前は未熟だ。力の発現に外部からの干渉を必要とする。他の悪魔の魂、スパーダの力を引き出す何らかの<鍵>、それらが無ければお前は無力な人間とそう変わらない」
 やめろ、と何度も叫ぶ。それらは全て声にならず、逆に耳を塞ぎたくなるバージルの言葉の一つ一つが浸透して、本能が理解しようとしていた。
「魔力など、悪魔にとっては魂が発する叫び、魂が抱く感情の発露に過ぎん」
 思い当たる事など山ほどある。アラストルやイフリートの力を憑依させた時に感じる、闘争心とは違う魂の高揚。あれは自分の中に眠る悪魔が目覚めようとする前兆ではなかったのか。
 ギルガメッシュと戦った時、あの窮地でリベリオンを手にした時にはソレがはっきりと感じ取れた。他者の干渉という不純物の無い、確かな魂の波動が。これまで封じてきた己の半身の凶暴な雄叫びが聞こえ、そしてそれに自分は気付かず歓喜していた!
 あの時のアレこそが。あの力、あの姿こそが、自分の中に潜む<悪魔>の本当の姿だったのだ―――!
「お前は自らの魂の訴えから耳を背けようとしているだけだ。お前の本来の剣をこの場に持ち合わせていないのも、それ故だろう」
 否定したいのにそれさえも出来ない。沈黙が肯定であると、分かっているのに。
「求めろ。父の、スパーダの力を―――」
「…………やめろ」
 ようやく、声を絞り出す。
 自分でも驚くほど冷たく、重い響きを持つ声だった。
 目の前で語る、自分と同じ血を持つ男を黙らせたい。それは悪魔を否定する怒りから来ていたが、皮肉にもその敵意が彼の中の魔の血を更に滾らせた。
 力尽きていたはずの体に熱が篭もり、握り締めた手のひらは骨が軋む程力強く震えている。ただの鉄の塊だったフォースエッジの刀身へ目に見える程の紅い魔力が蓄積されていく。
 全てを出し切った筈の体の中で、何かが爆発しようとしていた。
「そうだ、それでいい。お前自身の意思が<鍵>になる」
「黙れ……っ!」
 感情が爆発する。
「解放しろ、己の全てを」
「うるせえ!!」
 心が爆発する。
「その上で―――」
 いつの間にか立ち上がったダンテと、その身から立ち昇る自分と同じ悪魔の力―――正真正銘、文字通りの<魔力>を見据え、バージルは静かに宣告した。
「お前の全てを抹殺する」

 魂が、爆発する。

『―――ッ■ァ■ア゛アア■■■■■■■ーーーッ!!!』
 バージルの完全な敵対の言葉と同時に、ダンテの中で全てが弾けた。自分を抑えていた自制心、意思、感情、あらゆる枷が。何もかも吹き飛んで、魂だけを剥き出しにした。
 ダンテを中心にして紅い嵐が巻き起こる。死にかけだった肉体から噴き出すおぞましい魔力がその正体だった。周囲の空気が震撼し、夜の闇が怯えるように震える。二人のバトルフィールドを覆う結界の近くにいた全ての生命が無条件に恐怖した。
 それは、一体の悪魔がこの世に発現した証だった―――。
「……今ならこう呼べる。出来の悪い<弟>よ」
 変貌したダンテの姿を見つめ、バージルは初めて僅かな愉悦の感情を含んだ笑みを浮かべた。
 先ほどまでダンテが立っていた場所に、同質の、全く異なる存在が佇んでいた。
 針金のように逆立った銀髪と、背中から生え出た一対の異形の翼。硬質化し、外皮となった衣服の上を血脈のように縦横無尽に走る無数の亀裂。握り締めたフォースエッジに宿る紅蓮の魔力は、その刀身を形は同じなれど全くの<別物>に変えてしまっている。
 変わり果てた顔に刻まれた瞳に宿るのは『理性を持った殺意』と『狂気に染められた意思』―――。
『……』
 魔人となったダンテは、普段の軽口の陰も見せず、無言でバージルを視線で射抜いた。
 バージルの口元から笑みが消える。
「……始めるか。本当の戦いを」
 呟くと同時に、バージルも一瞬で変貌した。
 相対するように発生する蒼い魔力の奔流が全身を覆い、<人間>から<魔人>へと存在が変質する。その姿は、奇しくもアサシンであった時のそれと酷似していた。
 ただ一つ違うのは、彼自身の意思と理性が残っている証として、顔だけが人間であった時の原型を留めている事だ。それでも両眼に宿る光は悪魔の狂気と怒りを滾らせている。
 ―――それと同時に、バージルの両腕に宿るイフリートの篭手が蒼く燃え上がり、その形を崩壊させ始めた。
 恐ろしい悲鳴が何処からとも無く響き渡り、篭手が炎と共に消滅すると同じくして声は掻き消えていく。両腕の炎はそのままバージルの全身に奔り、色を失うように消滅した。
 悲鳴はイフリートの断末魔だった。バージルは己が魔人と化す為の<栄養>として、イフリートの魂を喰ったのだ。『魂喰い』はサーヴァントとしての特性、完全な受肉ではなくエーテル体によって構成される身だからこそ成立する効率的な魔力補給の手段だった。それが高密度の魔力体である悪魔の魂ならばなおさらだ。
 その行為にバージルはさして抵抗を感じない。悪魔同士の『共食い』などという陳腐な言葉など思い浮かびさえしない。自分は人でも悪魔でもない半端な存在だ。その曖昧な自身に対する苦悩と憎悪は永遠に彼を苦しめる。そして、その痛みこそが彼の強さだった。
 バージルが再び大剣へと変化した自らの刃を持ち上げる。
 二体の魔人。彼らは再び対峙した。人を超えた力と存在を以って。
 そして、唐突に二人は戦場を変えた。







 夜の闇に満たされ、人工の明かりがまだ眠る時間ではない事を現している冬木市。
 その町の一角から二条の光が、夜空へと飛び立った。
 それは一見するならば、まるで光の柱。彗星のような淡い残光を残し、紅と蒼の光が上空へと舞い上がり、そして静止する。
 その光景を見て、なお理解できた者は果たしていただろうか。
 その現実を直視して、この世のモノであると認められた者がいただろうか。
 それは人だった。
 人のカタチをした者だった。
 上空千メートル以上に位置する空間で静止する、人間の形を持った魔の超越者、二人。
 ダンテとバージル。それぞれが人としての名を持つ悪魔が二人、地上から上空へと戦場を変えて、二度目の対峙をしていた。
 魔人の形態となったダンテはその背に生えた禍々しい翼と魔力によって。バージルもまた、ボロボロのマントであった筈の物が瞬時に蝙蝠のような醜悪な翼へと変化し、その力によって飛行していた。
 だが、それは果たして<飛行>という言葉で表される状態なのか。鳥のように翼を羽ばたかせ、飛ぶ事を目的として作られた体を以って飛んでいるワケではない。
 重力、空気抵抗、魔術、術式、全て意に介さず。科学的にも魔術的にも道理の通らない異界の中で二人はただ翼を威嚇するように広げ、空の上で『佇んで』いた。
 まるで其処だけが、世界の常識から切り離されてしまったかのような異常―――。
 その許されざる異界の光景を、世界が許したのはもう遥か古の時代。人が今も語り継いでいる、<天使>や<悪魔>と呼ばれる者達が存在した神話の時代だった。これはその再現に他ならない。
 ならば、おかしな事は何も無い。
 かつて人が空を見上げるだけの存在だった時、その背に翼ある者こそがこの人の手の届かぬ聖域を飛び回れると信じられていたのだから。その夢想と畏怖の信仰を受け続けた最古の存在の一つである<悪魔>が、この夜の空を飛べぬなどという事こそ在り得ない―――!
『―――!』
『―――!』
 二体の悪魔が互いに吼えた。口から出た言葉が人間のモノであったのか、それともそれ以外のモノであったのか、聞き取れた者はお互いしかいない。
 ダンテとバージルは各々が持つ刃を構え、そして空を駆け出した。
 そこに不自然さなど欠片も無い。ただ地上という括りが消えただけで、二人の体勢に先ほどと異なる点は見られなかった。彼らはただ解放されたに過ぎないのだ。この世界の法則と言う鎖から。
 其れは、二体の悪魔が世界に刻む闇の神話の光景。
 世界は戦慄する。
 世界は怯える。
 許されない。そんな戦いはこの世の理において許されない。<この世界>は、異界の概念と血を含むお前たち二人の激突を許容出来るように創られてはいない。
 やめろ。許せない。認めない。やめろ。止めろ。ヤメロ。その戦いを『やめろ』―――!


 ―――そして、世界の全てが死ぬ。


 世界の懇願を、二体の半端な悪魔は切って捨てた。
 人でもない、悪魔でもない。裏切りの栄誉と烙印を持つ父の血を受け、人間の母の愛を受け、しかし俺達は『どちら』でも無い。自分が居るべき場所は二つ在り、その二つの世界はどちらも自分達を認めはしないし、拒絶もしない。この身が何なのか、自分も他者も決めかねる。
 そんな曖昧な存在が二つ―――。
 俺達は同じだった。同じだからこそ一つを分け合い、互いの考えに反発した。
 どちらが正しいのか、自分を含む誰にも分からない。だからこそ、もう信じるしかない。自らの<意志>を信じ、戦いによって答えを出す他ない。
 今、この瞬間こそはその<意志>と<力>だけが全てだ―――!
『『■■■■■■ーーーッ!!』』
 声無き叫びを上げて、紅い悪魔と蒼い悪魔が上空で激突する。
 魔人ダンテの放つ袈裟斬り。頭から飛び込むような体勢でありながら、あたかも充分な踏み込みを以って放たれたかのようなソレを魔人バージルは下に潜り込む事で回避する。そのまま振り抜いた相手の胴体を突き上げるように剣先を上へ―――が、返す刀が刀身を弾いて逸らした。横薙ぎの力の流れに乗ったまま、ダンテは駒のように体を回転させる。そこまでが最初の交差で行われた攻防であり、二人は擦れ違った後一瞬で間合いを離し、そしてまたも一瞬で身を翻して再び自らの敵に襲い掛かった。
 夜空に炸裂弾のような光の爆発が連続して巻き起こる。それは剣同士がぶつかり合う金属の火花だけが原因ではない。同時に激突する凶暴な魔力の爆発と相殺の結果だった。
 空という広大な戦場を存分に使って行われる、文字通り人智を超えた大激突―――。
 翼を持つ者が行う熾烈な空中戦(ドッグファイト)―――。
 在り得ぬ軌道を描いて無限にぶつかり合う二つの彗星―――。
 上空千メートルで行われる剣戟―――。
 着いては離れ、離れては着き。上から斬りかかり、右へ逃げ、下から飛び上がったかと思えば左へ疾走する。文字通りの縦横無尽。
 世界の理を超越した存在だけが、全ての枷から解き放たれ、空間の全てを使う事を許される。真の意味での三次元戦闘だった。
 幾度目かの激突の後、広大な間合いを取ったダンテが体を捻り、弓のようにしならせて溜めた力を解き放つと同時に剣を投擲した。横回転の刃が標的を切り刻む意思ある斬撃。
 それをバージルが全く同じ構え、同じ技の発動で迎撃する。
 離れた二人の距離の丁度中心で、二本の刃が激突した。互いに回転の勢いを一向に衰えさせぬまま、無数の火花を飛び散らせて剣は激突し続ける。
 状況は完全な拮抗。判断すると即座に、ダンテとバージルは次なる行動を起こした。
『ハ―――ッ!』
 バージルは鋭い呼気と共に片腕をダンテに向けて突きつける。たったそれだけで全ての過程を無視して<魔術>が発現した。
 彼の頭上で半円を描く形に整然と隊列を成し、蒼白い幻影の剣が群れ成して出現する。それらの剣先は全て、照準を前方のダンテに定めていた。
 その光景は、かのギルガメッシュが所持する宝具の軍団やアーチャーの投影魔術を連想させたが、今それを気にする者はいない。
 幻影の剣は、号令も無くただ意思の引き金を以って一斉に放たれる。矢のように直進する剣の軍勢に向けて、一方のダンテは両腕を突き出し、次の瞬間その手のひらから雷撃の如き魔力の弾丸を連続で撃ち出した。
 重機関銃じみた威力と連射速度で発射された高密度の魔弾が、飛来する幻影の剣を次々と撃ち落す。
 ―――それは、なんという出鱈目。
 凡人が空想に留め、凡才の魔術師が羨望と共に見上げて届かぬ手を伸ばし、天の才を持つ魔術師が確かな理論と過程を踏んでようやく到達する高みへ、<彼ら>はただの一息で辿り着く。
 まさしく彼らこそが、人々の信望と畏怖の対象たる存在―――<Devil(悪魔)>だった。
 互いの必殺は相殺という結末で終了した。それまで魔力によって拮抗していた二本の剣が、唐突に力を失って互いに弾き飛ばされる。あらぬ方向へ飛んでいく己の剣を、二人は高速で飛行して同時に掴み取った。
 空中で剣を構えるという奇妙な体勢のままで、二人は奇しくも戦闘の始まりの時のように対峙する。唯一つ、違うのは二人の瞳に宿った意思の強さ。
(次で決める―――)
 互いに意図せぬうちに、ダンテとバージルの意思は共通した。
 これまでが様子見であったワケではない。手を抜いていたワケでもない。
 ただ、次の一撃はこれまでとは決定的に違う。自ら持つ相手への敵意と殺意の全てを込めた、眼前の敵を凌駕する事をだけを目的とした渾身の一撃だ。
 ダンテが剣を担ぐように構える。袈裟斬りを意図し、それを相手に予告するかのような明確な剣の構え。
 バージルが剣を腰にある架空の鞘に納めるように構える。得意の居合い術を意図し、それを相手に予告するかのような明確な構え。
 互いに理解していた。次の攻防を決するのは、純粋な剣速と力、後は迷い無く貫く意志のみ―――。
 停滞と沈黙は、わずか一秒。
『―――ッ■■■■■■ッ!!』
 ダンテは咆哮し、かつて無い速度で空を駆けた。まるでロケットのような一直線の加速で、赤い光の軌跡を残して疾走する。
『――――ッ■!』
 対してバージルの移動はわずか一歩分。そのほんの少しの距離で己の全てを爆発させて、神速の剣を奔らせる。
 紅と蒼の最終交差は、世界と時間を置き去りにした速さで近付く。二つの光が触れ合った時が始まりであり終焉だ。
 互いの全てを込めた一撃は、どちらが標的を粉微塵に粉砕してもおかしくない。先に剣が届いた方が勝つのか、打ち合った時に力の勝った方が生き残るのか。
 いずれも問題ではない。二人の思考にそんな疑念は欠片も無く、ただ剣を振るだけの獣と化して刹那の世界を駆け抜ける。
 ダンテの視界をただ一色の蒼が徐々に埋め尽くし。
 バージルの視界をただ一色の紅が徐々に埋め尽くし

 そして―――。









 ズキンッ。

 左手の甲に有り得る筈の無い僅かな痛みが蘇り、その懐かしさにダンテは我を取り戻す。
「――――――キャス」
 凍りつくような刹那の世界で、ダンテは酷く間の抜けた声を発し、そして彼女の名を全て紡ぐ前にあっさりと胴体を薙ぎ払われた。










「……」
 魔人の力を解除し、蒼い外套を羽織った姿へと戻ったバージルは静かに地面へ足を着けた。無言で仰向けに横たわるダンテを見下ろしている。その瞳には侮蔑と哀れみしかない。
 同じく人間の姿へと戻ったダンテの体には、肩から腰にかけて斜めに縦断する獣の爪痕のような恐ろしい傷が刻み込まれている。そこから溢れる血で、彼の体も服も、倒れ伏した地面までゆっくりと赤く塗り潰されていった。
 激戦の後で沈黙が支配する交差点に、ヒュルヒュルと奇妙な風を切る音が聞こえた。徐々に近付くそれは上空から飛来し、バージルの眼前に突き刺さる。
 剣だった。空中でダンテの手から離れたフォースエッジが、遅れて地上に落ちて来たのだ。
 自らの刀は鞘に納め、バージルは墓標のように突き立つ無機質なその刀身に歩み寄ると、無造作に引き抜いた。
「……愚かだな、ダンテ」
 冷徹な響きで呟かれた言葉に、ダンテはただ僅かな呼吸を繰り返すだけで何も反応しない。
「愚かだ」
 バージルは繰り返した。これまで何度もダンテに向けて吐き捨て続けた己の本心を、今再び強く抱いていた。
 なんて愚かな、この身の片割れ。コイツと同じ血が流れているかと思うと反吐が出る。
「力こそが全てを制する―――その真理に、お前はあの瞬間不純物を混ぜた。その結果がこれだ」
 フォースエッジを携えたまま、バージルはゆっくりとダンテに歩み寄る。
「お前の中の<人間>が、あの瀬戸際でお前の足を引いた……」
 眼下に見下ろせる位置まで歩み寄ると、彼は冷たい視線を落としたまま淡々と目の前の敗者に語りかける。
 殺意も無く、怒りも無く、酷く平坦な感情のまま握り締めた剣は無造作にぶら下げ。
「―――これがお前の限界だ」
 一気に、ダンテの心臓へと剣を突き立てた―――。















 悪魔の父と人間の母を持つ兄弟がいた。
 一人は凍える魔から力を求め、一人は暖かな人から心を求めた―――。



 子供の頃から、自分の中には悪魔がいた。
 初めてその悪魔を自覚したのはいつだっただろうか?
 人ならざる父の力の燐片を見た時か。人間にはおおよそ扱う事の出来ない奇怪なスパーダの剣技を学んだ時か。
 ―――いや、違う。
 それは己の無力を知った時だ。
 母が自分の目の前で、禍々しき悪魔達に惨殺され、その傍らでただ膝を抱えて怯えながら隠れていただけの自分を知った時だ。
 ―――逃げて……ダンテ……!
 ―――絶対に出て来てはいけない! 何があっても隠れていて……!
 ―――絶対に!
 ―――ああああ……!
 ―――……。

 ―――死ンダ。
 ―――スパーダノ……
 ―――人間ノオンナ。
 ―――ゼンブ?






 ―――ゼンブ殺シタ。






 <俺>は何も出来なかった!


『―――ぐぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!』
 喉を裂かんばかりの絶叫を上げた。
 地を震わせんばかりの悲鳴を上げた。
 だが、そんなものに何の意味があるというのか。無力な存在の上げる憐れな叫びが、この世の何かを変えた事など一つとして無いのだから。
 血の海だなんて陳腐な表現が正しく当てはまる光景を、後にも先にもダンテは<あの時>以外知らない。
 死体なんて残らない。母の腕も、足も、頭も、心臓も、何も残されなかった。ただ人間一人分の皮袋に詰めた血をぶち撒けたような赤が床を染め上げ、そこに浮く数本の美しいブロンドの髪の毛だけが、惨劇の場に残されていた。その美しさに憧れた、母の髪と同じ金糸が。
 この手は、血溜まりからその髪を掬い上げたのだ―――!
 現実への怨嗟と、無力な己への憎悪が、この身の<悪魔>を目覚めさせた。
 あの日からずっと戦いが続いている。
 この世に現れる全ての悪魔と、加えてもう一体、この身に潜む忌むべき<悪魔>との戦いが。
 ―――朦朧とする意識の中、自分に歩み寄る蒼い人影を見つめてダンテは思った。
 これは報いなのだろうか。あれほど嫌悪し、肯定する兄に向けて否定をし続けた悪魔の力に、結局全て委ねてしまった自分自身に対する。
 ……ならば、仕方がない。
 敵を打倒する為に、己の悪魔に一片の疑いも躊躇も無く全てを任せてしまった。そして、土壇場に及んで人間としての自分が躊躇した。どっちつかずの中途半端な己の意思が、この無様な結末を生み出したのだ。
 自業自得だ。結局全ては半端な自分が愚かな事実。
 俺は敗者だ。
 迫り来る敗北の刃を受け入れて、ダンテは静かに意識を閉じる。

 ―――ズキンッ、と左手の甲が再度痛んだ。

 僅かな痛みが、眠りに就こうとしたダンテの意識を引き止めた。
 よせよ、こんな負け犬を引き止めるな。もう終わったんだ。

 ―――ズキンッ、と消えた筈の印が再度痛んだ。

 甘えるな、という叱責が萎えかけたダンテの闘志を揺さぶった。
 もういいだろう、未練たらしく俺に期待しないでくれ。もう終わったんだ。

 ―――ズキンッ、と断たれた筈の繋がりが再度痛んだ。

 馬鹿にするな、という怒りが疲れ果てたダンテの肉体を奮わせた。
 なんでだ、何故そんなに俺に構う。もう放っておけばいいじゃないか、お前には関係ない事だ。

 ―――ズキンッ、と一際強く<彼女>の声がダンテの脳に響き渡った。






『デカイ口叩いたのなら今更泣き言吐かないで頂戴、この馬鹿マスター』

 その鼻で笑う嘲笑が、ダンテの中で失われかけた全てを蘇らせた。






 ああ、その通りだ。いつだってデカイ口を叩いてきた、偉そうに叫んでいた。それらを嘘にしない為に、いつだって行動してきた。例え倒れようとも、泥水に顔を突っ込もうとも、震える膝でみっともなく立ち上がろうとも―――いつだって、目の前に迫る敵を不敵に笑い飛ばしてきた。
 その行動を、諦める事は捨てる事に繋がる。これまでの自分を『無駄だった』と否定する事に繋がる。
 それは侮辱だ。これまで戦い続けてきた自分と、そんな自分に関わり、自分が戦う為の理由と成り続けてきた者達に対する。
 ―――悪魔であり人である中途半端な自分の誕生を祝福し、愛してくれた母がいた。
 ―――自分の為に造られた白と黒の愛銃に、想いと魂を塗り込めて逝った老女がいた。
 ―――全てを失くした自分に、再び人としての暖かさを与えてくれた家族がいた。
 ―――悪魔を憎み、その悪魔に魂を委ねる人を憎み、それでも自分を信じて全てを託した少女がいた。
 ―――そして、烙印を押されて世界の全てを憎んだ魔女が、最後は名も知らぬ少女を救って逝った。その死を看取った。『いい夢だった』と自分を見て笑って逝った彼女―――。
 これら全ての人々の魂を、冒涜する事になる。
 ここで諦めたなら、ここまで背負ってきた全ての想いを溝に捨てる事になる。
 ああ、だから―――まだ、ここで膝を折るわけにはいかない……っ!!



 魂が、覚醒した。



『まったく、世話の焼ける男……』
 苦笑交じりのそんな小さな呟きを最後に聞いて、ダンテの意識は現実へと浮上した。













「何?」
 バージルは硬い手応えに一瞬動揺した。
 ダンテの心臓を貫くはずの剣先は胸を突き破って体内に届く事無く、その寸前に割り込んだ物体に受け止められていた。
 彼の鋭い突きをして傷つける事すら敵わないそれは、如何なる偶然か剣の軌道に割り込んだダンテの持つアミュレットだった。
「……っ!」
 初めて不快な感情を顔に表し、バージルは舌打ちする。ただの首飾りが剣を受け止めた事に偶然以外の要因がある筈はないのに、そこに何らかの意思の介入があったのではと錯覚せずにはいられない。
 まるで何者かがダンテを守ろうとしたかのように―――。
 ふざけるな。バージルは強い怒りと殺意と共に再び剣を振り上げた。目の前で起こった現象が何故か許せなかった。
 殺意の視線と剣先が再び一直線に向けられた、その時。
 ダンテの眼が見開かれた。
「―――うぉおおおおおおおおおおおおっ!!!」
 それまでの沈黙を打ち破る赤い咆哮。
 所詮は断末魔とそれを下し、意に介さず剣を振り下ろそうとしたバージルは、次の瞬間かつてない程の魔力の奔流を感じ取った。
「!」
 衝撃。
 フォースエッジを手放し、バージルは道路を渡って反対側の塀まで吹き飛ばされた。
 ごく単純な魔力放出による衝撃だ。ただ、その勢いが桁違いのものであるという事以外は。瞬間的にだが、ダンテの魔力はこれまで出会ったどの存在をも凌駕していた。悪魔もサーヴァントも、それ以外も含めて。
「貴様……っ」
 バージルはすぐさま立ち上がり、前へと駆け出した。彼の手を離れ、目の前に突き刺さったフォースエッジに手を伸ばそうと立ち上がるダンテに向けて、神速の居合いを抜き放つ。
 確かな手応えを以って刃は無防備なダンテの横腹に吸い込まれ、直撃し―――そしてそのまま皮一枚切り裂く事も出来ずに停止した。
「なんだとっ!?」
 思わず驚愕の声が漏れた。
 力も速度も技の切れも、全てにおいてこれまで繰り出したものと何も変わりはない。巨大な石柱さえ斬り倒す鋭利な一撃が、一ミリも刃を通す事無く受け止められているという目の前の光景がバージルを一瞬呆然とさせた。
 いや、それよりも疑念が先に立った。
 アレは、眼の錯覚だったのか―――?
 ダンテが魔力を放出させた瞬間、そして今一撃を受け止めたインパクトの瞬間―――ダンテの存在と摩り替わるように魔人の姿が具現化した事が。
 そして、それが先ほど戦ったダンテ自身の力でも、他の悪魔を憑依させた時の力とも違う、あるいは父スパーダのモノとさえも違う全く未知の<力>と<姿>であった事が―――。
 だがバージルの混乱はそこで中断された。
 横腹で止まり、次の攻撃に移る事も忘れた彼の刀をダンテが握り締めた。刀身の部分を躊躇いもなく。
 我に返ったバージルが持ち上げた視線の先で、こちらを睨みつけるダンテの鋭い眼光とかち合う。血のような赤い魔の輝きと、しかし同時に人間のような穢れない怒りの感情を宿した瞳が、バージルを射抜いた。
「ハァッ!!」
 気合い一閃。右手でフォースエッジを握り、左手でバージルの閻魔刀を掴んだダンテは蹴りを繰り出した。
 てっきり剣で斬りつけるものと思っていたバージルは、無防備な腹にブーツの底を凄まじい勢いで叩きつけられ、そのまま弾けるように吹き飛んだ。再び壁に激突し、背後でブロック塀が崩壊する。衝撃で刀はダンテに掴まれたまま手放してしまっていた。
 全てにおいて逆転した立場で、二人は対峙する。
「馬鹿な……っ」
 血を吐き、バージルは呆然と呟いた。
 フォースエッジと閻魔刀を左右に持って佇むダンテを見つめる。
 その体に刻まれていた筈の傷はことごとく復元し、消え失せていた。だが、それでも彼が消耗している事は明白だった。拭い切れぬ疲労を抱え、ダンテはかろうじて立っているのだ。
 魂の力は肉体に反映される。悪魔にとって本当の<死>とは肉体の死ではない、魂の死であり消滅だ。肉体は魂を包む衣服に過ぎない。
 ならばダンテの傷が修復された事は魂の力によるものだ。バージル自身も語った、魔力は魂の叫びであり、彼らの人の形を持つ肉体が魔人へと変化するのもそれ故である。
 ―――だからこそ、バージルは信じる事が出来なかった。
 それでは、あの時見たダンテの姿は奴の魂の姿だというのか。
 今度ははっきりと確認できた。蹴りを受ける瞬間、ダンテの攻撃の意志がソレを発現させたのか、瞬間的にだがダンテの肉体が魔人のそれへと変化した。
 ひと回り大きく肥大化した肉体に、まるで甲冑のような硬質の外皮。その色は無機質な灰に染まりまさに鎧だ。新たに生え出た四枚の翼に四本の角。まさしく悪魔足る異形の中の異形へと変貌を遂げ、何よりバージルを圧倒したのは根本的な存在感―――。
 全てがこの世界に在るモノを凌駕していた。魔力も、威圧感も、その魂の波動も。
 誰にも恥じる事などない、あれこそが悪魔だ。完成された<悪魔>だ!
 だが彼は知らなかった。その<悪魔>を知らなかった。ダンテ自身の持つ魔の力でも、他の悪魔の力でも、血筋であるスパーダの力とさえアレは同じではない。

 ではアレは何だ―――?

 アレがダンテの中に宿った真なる魔人の姿だというのか―――?

 人と魔の混血だけが持つ、悪魔を超越した<魔人>の姿だとでもいうのか―――?

 ―――ならば、何故同じ条件でありながらその力が俺ではなく奴に宿る―――!?

「ダンテ……ッ!」
 呆然とする自身の心を凌駕し、バージルに怒りが湧き上がった。目の前の光景に対して凄まじい憤怒の炎が燃え上がった。
 全てを捨てて自分が求め続けたモノを、それを否定し続けた目の前の存在が手に入れたという事実を理解し、嫉妬と憎悪を爆発させ、それが力となって彼自身を立ち上がらせた。
 認めない―――!
「ダンテェ!!」
 認めはしない―――!
 武器を持たず、それでも完全な敵意を以って睨みつけるバージルへ、ダンテは無言で左手の閻魔刀を投げつけた。
 唸りを上げて矢のように加速した刀は一直線にバージルの額に向けて飛来し、しかし標的を射抜く事無く顔の横を掠めて背後の壁に突き刺さった。
「……今度こそ決着をつけようぜ、バージル」
 バージルの眼光を一歩も退かず受け止めて、ダンテは静かな凄みを含んだ声で呟いた。
 無言で突き刺さった刀を引き抜く。怒りと殺意を宿したまま、バージルはそれに応じた。








 魔力は本当に空だった。体の傷は癒えていたが、それだけだ。
 バージルを圧倒したあの力は期待出来ない。アレがどういうものなのかダンテ自身にも分かり得ていないし、おそらくもう意図して引き出すことは出来ないだろう。正直、あの状態から蘇った事だって自分の力だけで成し得たものだとは思えない。情けない事だが。
 今の彼に残されたものは純粋な体力だけだった。それも、もうギリギリ搾り出してほんの一握りだ。
 だが、それで充分だった。まだ剣を振るう事が出来る。
 刃に込める力は魂だ、この場でそれ以外に賭ける物はない。
 使うものはこの身に刻んだ父スパーダの剣技のみ。
 ―――そうだ。何故<剣技>なのかようやく分かった。
 悪魔の身でありながら、スパーダが何故<人の技>として自らの力を昇華したのか。其処に込められた願いをようやく理解した。
 存在が既に力であり、力こそが意味を持つ悪魔でありながら、何故剣を振るい自らを鍛えたのか。
 スパーダは二千年以上前からずっと、人間に憧れていたのだ―――。
 高みを目指し、ひたむきに努力するその尊い精神を。
 他者を想い、献身する事で得る力の気高さを。
 彼は、ずっと見上げていたに違いない。
 ダンテは宿敵を目の前にして、奇妙に落ち着いた気持ちで深呼吸した。
 肺一杯に酸素が満たされる。ただそれだけでほんの僅かな力が蘇る。人が当たり前として享受するこの世界は、自分も含めて等しく在る事を認めてくれる。
 ああ、世界はなんて優しい―――。
「……聖者のような笑みを浮かべているな、ダンテ。満ち足りた笑顔だ。お前には似合わない」
 抜き身の刀を正眼に構え、バージルは唾棄するように呟いた。
「アンタはいつも通りだ。飢え切った獣みたいなツラだぜ、バージル……」
 肩の力を抜き、軽く腰を落とした構えでダンテは応じた。教わった剣技の中でも基本的な構えだ。バージルも一番見慣れているだろう。今更奇抜さなど何の意味もない。
 何者も立ち入らぬ静寂の闇の中、ただ一定のリズムで呼吸だけが繰り返された。
 相反する力の収束する存在が二つ、機を測りながら対峙し続ける。
(俺なら、あと二呼吸で来る―――)
 浅い呼吸の中、ダンテは静かに思考する。
 一つ。
 バージルの構える剣先が、僅かに揺れた。
 二つ。
(来る、今―――)
 トンッ、という軽い靴音が二つ重なり、ダンテとバージルが酷く静かに駆け出した。静寂に整った夜の空気を切り裂くのではなく、すり抜けるように二つの人影が疾る。
 ほぼ同時に、振り上げられた剣と引き絞られた刀。縦下ろしと横薙ぎの太刀筋が一点で交わり、火花を散らして互いを逸らし合った。
 不発。否、この剣戟さえも本命の一撃を爆発させる為の助走に過ぎない。
 決闘前の軽い手合わせのように触れ合った自らの剣を、振り抜いた姿勢で互いに静止させ、同時に二人は足を止めた。
 その位置は、お互いにすれ違い、僅か相手より一歩離れた地点。互いの背が触れ合うほどの超至近距離で、ほとんど背を預け合うような奇妙な体勢のまま二人は止まっていた。
 半歩振り返れば斬りつけるべき敵がいる完全な勝機であり、また逆にそれ程の距離で相手に背を向けたまま静止している絶望的な窮地でもある。
 視界に相手を捉える事が出来ないというのに、背中ではその鼓動すら感じ取れる。殺気は限りなく近く、死のタイミングは限りなく早い。
 極度の緊張に、二人は振り返る事が出来なかった。今にも振り返り、後ろから斬りつけてくるかもしれない。今動けば。今動けば。考えれば考えるほど動けなくなった。
 二人は誰もいない前を睨み付けたまま、自らの意識を極限まで集中させた。
 一瞬は永遠になり、永遠は一瞬になり―――そして。
「―――っぁあああああああああっ!!」
「―――っぉおおおおおおおおおっ!!」
 互いに軸足を中心にして鋭く半円を描いて振り返る。視界に捉える紅い影、蒼い影。
 ダンテは振り返る勢いを利用して、そのまま剣を横に薙ぎ払うように振ろうとしていた。バージルはそれに刀を合わせる事で対応する。
 日本刀は斬撃を正面から受け止めるのではなく、受け流す事を本質とする。攻撃を終えた直後の隙、<後の先>を狙う事こそが基本だ。バージルは冷静にそれを狙っていた。
 渾身の一撃の後にこそ致命的な隙は訪れる。
 バージルはダンテの太刀筋を捉え、それに向けて刀を振り抜いて―――ダンテの太刀筋が曲がった。
「な―――」
 僅かに腰を沈み込ませ、軌道上に割り込む刀身を剣が擦り抜ける。そのまま最小限の弧を描いて、バージルの体を傷つける事無く剣は振り抜かれた。空振り、ではない。振り抜いた勢いを更にもう一段階の加速に使って、ダンテの体が駒のように回転する。一周して、旋風の如き速度と力を得たフォースエッジの刃が舞い戻ってくる。
 すぐさま剣を振り上げ、斬り下ろしの形で迎え撃たんとするバージルは、しかし一瞬で悟ってしまった。
 ―――間に合わない。
 一閃。
「あああああぁぁ―――っ!!」
 横一文字の斬撃が、バージルの胴体を薙ぎ払った。
 振り抜かれた剣。
 振り下ろせなかった刀。
 弧を描いて四散する血飛沫。
 全てが、終了した。
 カッと眼を見開き、自分を捉えた必殺の一撃を見届けたバージルは力なく両腕を落として、もつれる足で後退るようにダンテから離れた。
「……今の、技は?」
 喉の奥から溢れる血に口元を濡らし、バージルは震える声で問う。
「俺のオリジナルで編み出したヤツさ。アンタ以外に通用する相手はいないだろうけどな」
 手の内に残る、自分でも信じられない程の凄まじい手応えを握り締め、ダンテは答えた。
「そうか……俺の太刀筋を、読んだのか」
「ああ、アンタの剣は技の基本に忠実だった。……親父の剣に、アンタは何よりも忠実だった」
「ふっ……そうか。こだわっていたのは、俺の方だったのかもしれんな……っ」
 言いかけて、言葉の途中でバージルの体がぐらりと揺れる。
 ダンテは咄嗟に手を伸ばそうと走り寄り、しかし寸前で刀を突き付けられて足を止めた。
「―――寄るな。致命傷だ、俺はもうもたん」
「……何、言ってやがる。弱音かよ? アンタの力はこんなもんじゃないはずだ!」
 先ほどまで本気で殺し合っていた相手に向けて、励ますような叱咤を投げ掛けるダンテを見て、愚かな矛盾だと感じる。相変わらずコイツに論理的な思考能力はないな、とバージルは内心で嘲笑った。それは実際には苦笑というものだったが、彼自身は気付かなかった。
「例え自我を取り戻しても、俺が聖杯に召還された<サーヴァント>という立場にある事は変わらない。魔力の供給が途絶えれば、サーヴァントは消滅する以外にない存在だ。俺も例外ではない……」
 押さえた傷口から淡い光が漏れ始める。<アサシン>を構成するエーテル体が消滅しようとしているのだ。吐き出した血さえ、この世界から無くなってしまう。
「もとより悪魔の力が人間の魔力供給程度で再現出来る筈がない。俺の契約者は魔人の力を発現させた時点で既にラインを切っている。枯れかけた妖老だ、よほど慌てたらしい」
 自我が封じられていた時とは言え、自らの主に収まっていた醜悪な老人を思い出し、苦い表情でバージルは吐き捨てるように呟いた。
「吸収したイフリートの魂も、既に使い尽くした。お前の一撃がトドメだ。もう傷を治すだけの魔力はない」
 刀を突きつけられたまま動けないダンテの目の前で、以前見た時と同じ、サーヴァントが消滅していく過程が進んでいった。
 傷を中心に体全体が淡い光を放ち、燃え尽きるロウソクのように消えていく。流れ出す血や構えた刀すら例外ではなく、その現象に巻き込まれていないのは、唯一現実の器物である首に掛けたアミュレットだけだった。
「……どうやら、本当らしいな」
「これで三度目だ。俺の死に目など珍しくはあるまい」
 死を悼むように、沈痛な表情で見据えるダンテに対して、バージルは皮肉げに笑った。
「いや……そもそも俺達に<死>など存在するのか?
 俺の魂が聖杯に呼び寄せられ、サーヴァントとして再び形を持った事には偶然以外の要因がある筈だ。俺達は人間の肉体を持ちながら、悪魔の魂を宿している―――」
「何が言いたいってんだ?」
「俺達に人間としての安らかな死が許される事は難しいと言う事だ。
 俺もお前も、悪魔の死がどういう意味を持つのか知らないし、見た事もない。それこそ親父の死さえな。あるいは俺達の魂には<死>という解放など無く、永劫彷徨い続ける業が架せられているのかもしれん……」
「…………」
 徐々にバージルの声が不鮮明になり始めた。肉体は質量を失い、光と共に透けるように消え続けている。完全な消滅はもうすぐだ。
「だが、それならそれで構わない。俺はここで途切れるつもりは無いからな」
 消えかけた瞳で、それでもそこに宿す意思の光だけは衰える事無くバージルはダンテを見据える。
「お前が幾ら否定しようと、俺は俺の道を変えるつもりは無い。俺は父の、スパーダの居た領域を求め続ける。俺は、<ここ>でいい―――」
 その言葉を最後に遺し、バージルの肉体は完全に消滅した。
 ダンテは、それを最後まで見届ける。
 物理的な支えを失い、彼の首に掛けられていたアミュレットが地面に落下して乾いた音を立てた。
 残された物はそれだけだ。戦場に刻まれたた戦いの痕跡以外、最初から何も存在していなかったと世界が証明するように、魔剣士スパーダの血を継ぐダンテの半身はこの世から消滅した。
 夜が、本来の静寂を取り戻す。二人の戦いの間眠っていた、周囲のあらゆる生命が再び活動を取り戻し始め、空間を支配していた隔離的な空気も消え失せた。
 残されたダンテは、バージルが消滅した跡に歩み寄ると、アミュレットを拾い上げた。
 二つに分かれた母の形見であり、今また兄の形見となったそれを握り締める。
「……ああ」
 誰もいない虚空に呟く。
「楽に生きていけるなんて思っちゃいないさ。人間なら、当たり前だ―――」
 疲れたような独白を聞いた者はいなかった。
















 疲れ果てた足取りで衛宮邸までの帰り道を歩くダンテは、不意に背後から聞こえた排気音に俯いていた顔を持ち上げた。
 目前にはもう衛宮家の門が見える。周囲は静かで、人通りも無い。
 億劫そうな仕草で振り返ると、こちらに向かって迫る車のヘッドライトが見えた。一直線にこちらに向かって来る。道路があるのだから車が走るのは不自然な話ではないのだが、妙に迫る速度が速いように思えた。耳に届くエンジン音がやたらとデカイ。
 更に眼を凝らし、耳を澄ますと、窓から身を乗り出して自分の名を叫ぶ士郎の姿が確認出来た。
「あん……?」
「ダンテ、避けてくれー!」
 ダンテはようやく車がブレーキも掛けずに突進して来る事に気がついた。
「ヘイヘイヘイ、待てよオイ……ッ!!」
 決死の戦いから生き残ったのに、車に轢かれて死ぬなんて地味な終わり方絶対にしたくない。そんな必死の思いで疲れ果てた体を突き動かし、ダンテは咄嗟に横へ跳んだ。目の前を猛スピードで傷だらけの黒塗りベンツが通過していく。空耳か、セイバーと凛の悲鳴が聞こえたような気がした。
 暴走車と化したベンツは勢いを衰えさせる事無く衛宮家の門の角に衝突し、盛大な音を立ててようやく停止した。
「……おいおい、大丈夫か?」
 陥没したボンネットから白い煙を上げる車に怖々歩み寄ると、唐突に後部座席のドアが蹴り開けられ、中からイリヤを抱きかかえた士郎がのっそりを姿を現した。その肩は恐怖と怒りの両方で震えている。
 前から同じようにドアを開けて、凛とセイバーが姿を現した。あの暴走運転は凛がやっていたものだと分かると、ダンテは呆れるより先に納得してしまった。
「……このバカ!」
 士郎は煙に咳き込む凛に歩み寄って怒鳴った。彼には珍しいヒステリックな声だった。
「この大バカ野郎!!」
 もう一度全身で怒鳴った。完全にキレている。
「だ、誰が大バカよ!?」
「お前以外いるかよ、遠坂! 車高低いのにあんなデコボコ山道走ったら、ブレーキの一つもイカれるって分からないのか!? このバカ! バカ!!」
「なによ、バカバカ言うな、士郎のクセに! このバカ!」
 凛の絹糸より薄い理性もあっさり切れた。
「バカ! 考え無し! あかいあくま! 守銭奴!」
「バカって言うヤツがバカなのよ、バカ! 正義バカ!」
「ふたりとも、言い争いは止めてください! イリヤスフィールの怪我も診なければいけないでしょう!?」
 衝突のショックで呆然としていたセイバーが、ようやく我に返って二人を諌めようと教師のように叱った。本来ならばそれを聞き入れるだけの常識人である二人だが、如何せん今はタイミングが悪い。
「邪魔するな!」
「そうよ、邪魔よ! セイバーのバカ!」
「なっ、誰がバカですか! このバカーっ!!」
 怒りに赤面してうがーっと叫ぶセイバーを加え、事故った車の前で不毛な『バカ』の応酬を続ける三人。ご近所様からそろそろ騒ぎを聞きつけた人たちが集まってきそうな喧騒の中、ダンテは呆然とそれを眺め続ける。
「……っく」
 ―――不意に、可笑しさが込み上げてきた。
「クッ、クッ……ハハ! ハハハハハハ……!」
 疲れ果てた体では笑うのにもなけなしの体力を使うというのに、可笑しくて堪らないとばかりにダンテは肩を震わせる。
 それに気付いた三人が、ようやく正気を取り戻してバツの悪そうに彼を睨み付けた。
「何笑ってんのよ、ダンテ!」
 照れ隠しに怒鳴る凛に対して、『悪い』とばかりに手を振るが顔はまだ愉快そうに笑っていた。
 気がつけば、肩に重く圧し掛かっていたモノが軽くなっている。
 消えはしない。一生背負い続けるモノだ。だが、たったこれだけのやり取りで随分と楽になっていた。
「……ったく、お前らといると楽しいぜ。シリアスにやってるのが馬鹿らしくなるくらいな」
 その言葉が褒め言葉と判断していいものか悩んでいる三人にもう一度苦笑し、ダンテは何事かと玄関から飛び出してくるライダーとバゼットの方を見つめた。













「これだから、<人間>はやめられないのさ」
 健やかな笑みを浮かべ、ダンテは広い夜空を見上げた―――。














―――第五回聖杯戦争。クラス「アサシン」 真名「バージル」 脱落。残り4人(イレギュラー+1)


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